お父さん

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お父さん

 涙ぼろぼろこぼして鼻水も垂らして生まれたばかりの私を抱いてお母さんに嗚咽混じりで「ありがとう」とこぼしている映像は小さい頃から何度も見せられた。その度にお父さんは嫌がるものだから、お母さんや私と喧嘩したりすると嫌がらせ的のそのDVDを見ることにしている。嫌だ嫌だと言いながら、生まれたばかりの私の姿を流すと結局黙ってしまうから、すでに我が家の定番だ。情けないお父さんだけど、この人は悪いことはできないからとお母さんが口酸っぱく言っていたのが最近分かり始めた。 「祐奈!学校は⁉」  高校生になってから私は学校が何となく嫌になった。学校に行ったふりをして、そのままカラオケに行ったり、あてもなく街をふらついたり、両親がいないときは、こっそり自宅で過ごしていたのだけど、六月のある日、両親が留守だからと自室でスマホをいじってたら、お母さんに見つかった。 「ごめんなさい……」 「そんなことじゃなくて、どうして学校行ってないの?お母さんが知らないとでも思ってたの?先生から聞いているんだからね」 「ごめんなさい……」  学校に行ってない理由なんて、何となくでしかない。肌が合わない。そうとしか言えない。 「お父さんが悲しむよ?ちゃんとお父さんに理由を話すんだよ?」  私はただ俯いて黙った。お父さんが怒ることなんて見たことない。小さなことじゃ怒らないし、私もお父さんは怒らせたくはない。だから、お父さんに言われるのは嫌だ。怒るお父さんなんか見たくない。それをお母さんは分かって、そう言うのだ。  お父さんは卑怯た。生まれたばかりの私を抱いて号泣する人に心配なんかかけたくない。切り傷作るだけで慌てふためいて、帰りが遅くなると家の外で心配そうに立っててさ。でも怒らない。それだけ大切にされてるって分かるからお父さんには知られたくない。 「学校行くから」
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