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長屋には、雨が似合っている。側溝の板に叩きつける激しい雨音も良いがしとしとじっとり止まない雨の音も何だか楽しい…。 「雨音が楽しい処の長屋じゃなかったでしょう?立ち退きが決まったのに…勝手に入っていたんだから…。何でそんな事をしたんだ?」 ぶつぶつ文句は伊万里屋栄助、この激しい雨で軽く足止めされて居る。わざと失敗する手品の見習いを、桔はやろうとして居る何て話を聞かされれば…打ち上げ花火宜しく年寄りの伊兵衛が、血相を変え乗り込んで居た。 「つまんない話より、深刻そうだったから…文吉って子を早く見つけないとおせっかいが、事件起こした集団に連れて行きそうでしょう?だから、他人事だからといって余計な事をして欲しく無いんだ…あんな親切迷惑だと思った。」 伊万里屋の番頭伊兵衛さんの所には、事件に発展しそうな相談事が集まって来る。 「文吉のお父さんが、高利貸の徳一からの金を返せず、徳一さんに売った。だから狙われた筋書きか?それとも文吉の母ちゃんが探すのを嫌がった話を吹聴しまくっている親切なその男が殴打された…。全く伊兵衛さんがお前の信者何て言うから…本当に怖かったよな?他人の心何か操れ無いのに…。」 雨の音とは違う音が伊万里屋栄助には、聞こえている。桔が何かに怯えて居るのだった。 「…お礼を言われてぞっとした…けど、何にもしてないから、って言えなかった…。伊兵衛さんが怒るのは…当たり前だよね?執拗な大人から、文吉は逃げたいだけで…何て嘘ついたんだから…。」 その祈願が問題だった。自分の父親なのに居なくなって欲しい何て…桔は思いもしなかった。後で自分がどんな恐ろしい事を願ったか、少年は震えていたが…問題はもう一人…同じ祈願をした大人…。 「でも教えなかったんだろう?それなら…何でも無いさ…。悪気は無いが…あの長屋では害だった。大家さんは一番の害を取り除いた。それだけだろう…。桔が気にする事はない。その先は考えすぎだよ…。だから伊兵衛さんは怒った。桔は教祖様何かになるつもりは無いだろう?大人を煽動する恐ろしい申し子何て厭なんだろう?その子は全て知っているよ、お栄さんが教えちゃったからね…。だから伊兵衛さんが待っているから、雨が止んだら、文吉を預かりに行こう。」 母親が捨てた、その事を長屋中に夫婦で言いふらして…結果文吉の母親は同棲相手と長屋を出る羽目になった。探しに来た父親は別の事を心配して居た。
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