誘拐

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誘拐

大家さんが、文吉は誘拐されたと騒いだのは意味がある。もっとも信用ならない相手が文吉を捜索始めたからだった。文吉を自分の都合よい手柄の為に、母親を悪し様に噂した相手が引き取ろう何て居場所を探して高利貸の徳を見張り始めた。搦め手を使って、障害児を利用するなんて甘い考えが、本当に文吉にとって良くない等々考えて居ないのだ。 「可哀想な文吉を利用して、美人の母親に近づきたいなんて、奥さんに簾にされて当たり前でしょうよ…。とにかく長屋が二軒も空いたら、棚賃が足りないから、直ぐに繋ぎを入れて欲しいって、伊万里屋さんにはお願いしますよ。」 ケチで有名な大家さんの台詞に、栄助は苦笑いする。とにかく小言が多いので、長屋の者はあまり相手にしない。その小言をじっと眺めて居たのが文吉だった。それで大家さんは文吉を覚えていた。 「不思議な子供だったね…?とにかく私の言う事を一字一句覚えようとするんだから…。だから、早く見つけて欲しいんですよ。大工はあんな人でなしに、大切な子供を託す筈はありません!長屋で騒動起こしたのは、両成敗とごまかす事にしました。ケチの看板も伊達では無いようにしないと…。」 ケチで何一つ物何かくれない大家さんが、文吉を待って、羊羮何か用意してくれる!それだけでもう…ただ事ではない!長屋が大騒ぎとなっていた。 「長居しなくても良いなら、若い男性でも何人かで、良いですか?所帯持ちになったら、出るって事で…。胡散臭いのでも、短期間なら、大丈夫でしょ?その代わり棚賃は前払いとして…何て話で入る入らないは、問わない…までつけましょうか?」 前払いで、棚賃さえ払ってくれたらまあ、御の字と大家さんは了承した。この大家さんは、確かにかなりのケチだけど…清水の舞台から飛び降りるつもりで、詐欺商法に大金を払った若い頃の経験を根に持っていた。 「人数分前払いなら、仕方無いとして…又貸しは不可!ちゃんと本人なら、身元は問わない…こう見えてもお前さん達には、まだない眼力はある。ずるずる長居されても困るから、私の小言の相手をしてくれるなら、どうせそれが嫌でさっさと出て行くだろうが?よしとしましょう。」 案外ものわかりの良い態度に、まずは安心した。溜まっていた家賃を返せず夜逃げ何てして欲しく無いのが…本音の底にある。 「あの子を、何だか変な太鼓を叩く団体が探して居るらしいが?あの団体を、進めたのが、どうやら瓦版の女房でね…今までの棚賃を綺麗に払ってこちらには、間男と出て欲しいとお願いしたのさ、子供はどこかにさっさと奉公にでも出して貰う!強欲で悪党の大家さんですから!何処にでも掛け合いますって…もしかして…お前さん私の心配をしてくれたとでも?身の回りの世話を焼いてくれるのは、女房で、間に合って居るよ。倅に新しい孫が出来たのさ…見て行ってやっとくれ。」 何だか嬉しそうな大家さんの様子に?少し栄助はギクッとしてしまう。いや、何も悪い事をして居るのでは無くて、何だかこの大家さんとの距離が掴めず苦手にして居たのだった。今は程よい距離があるらしい。 「佐平次と言う若いのが、連れと一緒に借りたいって話ですけど…大丈夫ですよね?時々自分も泊まるかもしれませんけど…一泊でもあの…顔は出します!」 大家の機嫌が変わらない内に、事はすませようと栄助は、大家さんの条件をのんだ。
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