猛攻

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猛攻

「とにかく! すぐに過去の心霊裁判で俺の原告になった連中に、片っ端から連絡をとるんだ! それで少しでも怪しい兆候があれば、ただちに連絡して貰え!」  アクセスのあったファイルは何れも過去の裁判事例だ。  ここから考えうる事は。 「は、はひ! すぐに……」  慌ててデータベースを開いてルナが電話を始める。 「あ、あの、こちら鬼主法律事務所ですが……」  ……はっきりとは言い切れないが、的梨先生が何かを企んでいるとしたら多少なりと霊感の働く相手を探していると見ていい。そうでないと『何も感じない相手』に心霊現象を起こしても無意味だからだ。  その場合、誰の霊感が強いのかをいちいち探すよりも過去の裁判事例で原告になった人間を当たった方が100倍早いのは間違いない。  的梨先生がそう考えたとしても、不思議はなかった。  ……俺の勘が外れてくれればいいのだが。  しかし、その悪い予感は見事に的中した。 「え? それは本当ですか? それは昨晩の事ですか?」  ルナがメモを取り出す。 「やはりか……」 「『出た』そうです!」  ルナが電話を切り、青い顔でメモを見せる。 「一昨日に『絵皿を壊した怨霊』の心霊裁判をしたばかりの部屋で『今朝になって、コップが不自然に動いた』と……」 「くっ……やはりか! おい、すぐに行くぞ! 車に乗れ!」  背面に掛かっていたローブを肩に掛け、鞄を持って飛び出す。 「は、はい! ちょ、ちょっと待ってください!」  慌ててルナが後ろから追走してくる。  ブルル……。  車のエンジンを掛け、すぐに発進させると一直線に『一昨日に行ったばかりのマンション』へと向かう。 「そ……それにしても、その『的梨先生』?は何を考えているんでしょうか? だって、下手に暴れれば速攻で封印されるって事は、心霊裁判官をしていた自分が一番よく知っているでしょうに」  ルナが小首を傾げる。 「さぁな……そればっかりは『本人』に直接聞かねぇと分からんが……。とにかく、俺達は今出来る事をしねぇとよ。そうしないと暴走が過ぎて大事故が起きないとも限らん!」  小一時間ほど走り、車はマンションに到着した。 「……鬼主法律事務所です、先日はどうも。何かまた新しい心霊現象が起きたとか?」  挨拶もそこそこに、ルナとともに部屋へと入る。 「ええ、そうなんです! まさか、この前の『元ストーカー』が復活したとかはないですよね?」  元原告の女性が不安そうな目で俺を見てくる。 「それは無いと思います。『あれ』は心霊庁の保管庫で厳重に管理されていますから勝手に出てくる事はありませんよ。ですから『何かある』としたら、それは新しい(やつ)です」  注意深く辺りを見渡す……必要も無かった。  透明度99%ほどに身体を『薄く』した的梨先生が、ニヤニヤしながら部屋の隅にあるソファーに座っている。  まるで『遅かったな』と言わんばかりだ。 「……で? 具体的には何があったんです?」  俺は先生を睨みながら元原告に尋ねる。今のところ、元原告は先生の存在に気づいていないようだ。透明度を上げて、上手に姿を隠してやがる! 「ええ、それなんですけど。そこの棚に置いてある『ガラスコップ』が、私の見ている前でスルスル……と横へ10センチほど動いたんです」  薄気味悪そうに、ガラスの食器棚を指差す。 「ほう……! 『10センチ』ですか?」  もしもそれが本当なら、基準の『3センチ』を大きく上回るから、立派に罪に問える。 「ええ、そうなんです。そして、私が驚いて悲鳴を上げた途端にまたスルスル……と動いて『元の位置』に戻ったんです。もう怖くて怖くて……」  チラリと後ろを見ると、役立たずのルナはすでに半分腰が抜けかかっていた。……ホントに役に立たねぇヤツだぜ。  が……それにしても、だ。 「ち……っ!『元の位置に戻った』ですか……!」  ギリ……と奥歯を噛みしめる。  そう、これが普通の怨霊なら何の問題もなく『物体の移動基準超過』で、そのまま封印してやるところである。  が、しかし。  ……だろうな。流石はよく知ってやがるぜ。つまらん真似をしやがって……!
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