運命の人

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次の朝、通知が来ていて絵梨は飛び上がって起きた。 “新作書きました。読んでくれると嬉しいです。 ぽあろ” 絵梨がうきうきしながら朝食を食べに食卓に向かうと、珍しく父がいた。 今日は外出する日か。 Yシャツ姿の父が、大きなあくびをしながら新聞を読んでいる。 父と母と三人で食卓を囲みながら、絵梨はぽあろの新作が気になって仕方なかった。 通学電車の中で一気読みした絵梨は、ほう、と息をついた。 やはり面白い。 “新作読みました。ラストのどんでん返し、凄かったです。 衣傘クリス” 新作『月とナイフ』は、記憶の中の犯罪を扱った重厚なミステリーだった。 絵梨はやはりそれに影響されて、授業中に教科書の陰にスマホを置いて、短いミステリーを投稿した。 その後のバイト中もずっとそわそわしていたが、休憩時間に確認しても通知は来ていなかった。 がっかりしながら家路につくと、家に着く前の十字路の所で父に遭遇した。 「あれっ、お父さん? 今帰り?」 「ああ」 父は短く答え、そこで会話が途切れる。 無言のまま、家に辿り着き、それぞれ自室と書斎に別れた。 父は一言しか返事が出来ない呪いにでもかかってるのだろうか。この間の東野圭吾は例外として。 絵梨は顔をしかめる。 母は父のどこが良いんだろう。 私なら、もっと語彙力とユーモアがある人が良いな。 ぽあろさんみたいな。 そう思った瞬間、絵梨は赤くなった。 これじゃまるで、私、ぽあろさんの事を好きみたいになってる。 私が好きなのは、あくまでぽあろさんの作品! 絵梨が自身に言い聞かせた時、ぴろん、と通知が鳴った。 高鳴る胸を抑えつつ、絵梨は通知を開いた。
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