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会う計画については、とんとん拍子に決まった。
たまたま相手も、絵梨の住む東京のT市が都合が良いらしかった。
一週間後の日曜日、ミステリーのファンに愛されている喫茶店、砂漠の雪で待ち合わせすることになった。
目印は、先に着いた方が『終りなき夜に生れつく』の文庫本を机の端に置くこと。
一週間後を楽しみに、絵梨は浮いた足取りで朝食の席に着いた。
これまた珍しく、父が向かいで宙を見つめてぼんやりしていた。
絵梨があくびをすると、父もつられたようにあくびした。
「あくびって移るよね」
絵梨が話しかけると、
「そうだな」
やはり父は一言のみ。
しかもいつも以上に上の空だったが、幸せ絶頂の絵梨は特に気にしなかった。
絵梨は一週間、ずっと妄想に浸っていた。
会話から、ぽあろさんはきっと年上の男性。
日中返事がないのは、お仕事しているから。
黒髪ロングのイケメン。
文学青年がそのまま大人になったような、知的な感じ。
「はじめまして、衣傘クリスです」
「はじめまして、ぽあろです。……あの、いきなりですけど、あなたに一目惚れしてしまいました」
いやいや、それはさすがに無い!
否定しながらも、にやける絵梨だった。
運命の人って、こうして巡り会うものなんだなぁ。
まるでラブストーリーの登場人物みたい。
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