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昔から、絵梨は読書が好きだった。
父の書斎に忍び込んでは、ミステリーを読み漁っていた。
大学生になった絵梨は、バイト代でミステリーを買い求め読んでいた。
しかしバイト代にも限りがあり、まだまだ読みたいと欲求を募らせていたところで発見したのが、無料小説投稿サイト『エブリー』である。
絵梨は、そのサイトの魅力にはまってしまった。
#ミステリーで検索すれば、いくらでも素敵な作品に出会える。
父の書斎に忍び込んでいた時のように、こっそりと秘密の宝箱を覗き込むような気持ちで、絵梨はひたすら作品を読み漁った。
「何やってるか知らないけど、いい加減にしなさい。夜ご飯冷めちゃうでしょ! まったく、そういうところばっかりお父さんに似て!」
と母から愚痴を言われるほどだった。
絵梨が自室から渋々出て食卓に向かうと、ちょうど父も書斎から出てきたところのようだった。
目が合うが、会話は特にしない。
何を話したら良いのか分からないのだ。
そもそも、父が何の仕事をしているかさえ、いまいち分かっていない。
何やら文学の研究をしているとか言っていたが、ぼさぼさの髪に猫背で食卓に現れる時以外、書斎にこもるか何処かへ出かけている父が全く理解できない。
試しに「今日こんな事があったよ」と言ってみても、「そうか」しか返ってこないのでは距離の詰めようがない。
絵梨は半ば諦め気味に、
「今日ね、東野圭吾の新刊出てたんだよ」
と言ってみる。
父の目が一瞬きらりと光ったような気がしたが、やはり返事は「そうか」のみ。そのまま黙々とご飯を食べ、お味噌汁をすする。
テレビでは母が好きなバラエティ番組が流れており、絵梨と母は時々突っ込みを入れながら食事を済ませた。
絵梨は食器を流しに片づけると、部屋に足早に戻った。
――もしかしたら、久々の出会いかも!?
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