鶴田加代の平凡な日常

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 出版社・文夏社。  ここの経理として長年働いてきた鶴田加代(つるたかよ)は、この度社長直々の勅令で新規設立部署、BL企画編集部へと移動が決まった。  文夏社社長・安藤マリサとは高校時代からの友人で、元相方。隠れ腐女子としてひっそりと活動していた文字書きの鶴田だったが、とあるイベントでマリサと鉢合わせして身バレし、まさかの友人となった。  自分とは正反対の彼女だが、案外馬が合った。何より萌えるCPが同じで、上下も同じ。毎日のようにこっそりと推しCPについて議論(萌え談義)していた時代がまるで宝物のようである。  が、大学生になって同人サークルを解散し、萌えを語る友人に戻った鶴田とマリサだが、就職活動の際に彼女から「うちの出版社の経理が欲しい」と言われ、「アンタとの交友関係が人事にバレていない事を条件に試験を受ける」と伝え試験を受け、見事合格した。  そうして10年以上が過ぎ、経理の鬼だの妖怪だのお局だのと陰口を叩かれつつもここまできた。  それがまさかの移動である。多少、戸惑いもしている。  マリサ曰く「萌え狂って発狂必死よ! むしろ私が居座りたい」と言われたが、同僚については「当日まで秘密」と言われてしまった。  ただ、上司となる編集長が守谷だという事は聞かされている。それだけで白飯が3杯は食べられる。  守谷総一郎(もりやそういちろう)は文夏社でも長いベテランの編集者で、年齢は40代。上品に脂ののった大人の男の色気を感じる。何度か行きつけの店で鉢合わせし、恋人の崎村志乃(さきむらしの)共々、プライベートでは挨拶を交わす関係である。  なんとこの二人、恋人同士で同棲しているという。もう夫夫だ。これだけで酒が美味しくなった。  プライベートに踏み込みはしないけれど、鶴田の妄想では守谷が攻めである。大人の余裕と甘いマスク、柔らかな語り口からのしっとりな夜なんて…………あら、鼻血が。  とりあえず、これだけで移動に対して多少前向きになったのは間違いがなかった。
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