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夜の巡回をしていると、藤本の居室から漏れ出る明かりを見かけた。
高校の通信課程を取るものは、勉強時間を取る為に就寝を1時間遅らせられる事になっている。
その時間もあと数分で終わる。
前期と後期の年間2回の試験のうち、今回は卒業前の最終試験が迫っていると聞く。
マジックミラーになっているガラスで居室を覗くと、ノートに齧り付いて必死に勉強をしている藤本の姿が見えた。
本音は、ほんの少し。あと5分だけでも勉強をさせてやりたいと思う。
最初は興味もなかったのに、随分と肩入れしてしまっている自分に少し呆れる。
しかし、規則は規則。決まりは決まりなのだ。
時間ぴったりに、消灯を告げる。
消灯されたその壁の向こうに向かって、心の中で「頑張れよ」と声をかけた。
何故だかふと、鼻先がツンとした。
いかんな、これだから歳は取りたくない。
私は帽子に手を当ててしっかりと被り直し、理想の鬼刑務官を取り繕いながら暗い廊下を一人歩く。
カツーン、カツーンと響く足音だけが、辛うじて威厳を保ってくれているような気がした。
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