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愚者
おや、そこのおにいさん、鼻歌交じりにスキップなんかしちゃって、何かいい事でもあったのかい?
……え? 「いい事が〝あった〟んじゃなくて、〝起こりそう〟だから」?
へえー……ま、いいんじゃないの。
何処へ行くんだい?
……え? 「特に決めてない、気の向くままに旅をするんだ」?
そ、そうかい。
ああ、そっちをずっと行くとさ、細い道はあるけれど、すぐ近くが崖になっているんだ、気を付けな。落ちたら怪我だけじゃ済まないかもしれない。
……え? 「むしろ楽しそう」?
馬鹿言ってんじゃないよ、人が真剣に注意してやってんのに!
……え? べ、別にあたしゃ心配なんざしてないよ、あ、あんたみたいな知らないあんちゃんなんかさ!
もう行くって? ああそうかい、それじゃあね。
……え? 「おねえさん元気でね、またいつか」?
そ、そんなお世辞言ったって何も出やしないよ、馬鹿だねえ。今時の若者は口が達者だからねえ、へへっ、へへへへっ。
まああんたも元気で……って、もういやしないよ、あの無鉄砲あんちゃん。やれやれ。
気の向くままに旅かぁ。いいねえ。
ま、無事を祈ってやるとするか。
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