なにかが甘くてたまらないのです

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――ちょっ、ちょっと待った! 「それって、わたしは今まで主任のスイーツをみすみす食べ逃していたということなのでしょうか」 つい本音が出てしまいました。主任はぷっと吹き出しています。 「やっぱりそうだったんだ。遠慮なんかしなくてよかったのに」 わたしが午後三時を狙って姿をくらましていたことを、日渡主任は見抜いていたようです。逃した過去のスイーツたちを想像しめまいを感じました。 うろたえるわたしに向かって主任は続けます。 「だから今度の金曜日からは、 午後三時にちゃんとフロアにいてもらえるかな。できれば手を空けてほしい」 もっ、もちろんです! と心の中で思いました。 だけど、今までのスイーツを逃してきた痛手は計り知れないのです。 その分の代償はちょっとやそっとでは返せそうにありませんでした。 だからわたしの落とし所はたった一つしかないと思い立ったのです。 「わたし、午後三時頃はいつも忙しいんです。だから落ち着いてからいただきます……」 そんなわたしの仕掛けに対し、主任はただ単に首を縦に振ることはしませんでした。思惑通りの、一段上の甘い答えを返してくれたのです。 「おいおい、それではせっかく作った甲斐がなくなるじゃないか。そんな惜しいことをするくらいなら、」 そういう主任の頬がほんのりと色づいているのは、わたしの希望的観測のせいでしょうか。 それとも、まさかまさかの―― なんだか顔から汗が吹き出します。にきびも驚く、滝のような大量の汗です。 意識が朦朧としてきて、わたしは主任に助けを求めます。 「あっ、あのう……わたしも主任と……スイーツ食べたいです……」 ……ああ、口が勝手に。 どうやらわたしの口は主任のデザートに服従してしまったみたいです。もしかしたら、主任のフルーツポンチには、乙女心を素直にさせてしまう魔法がかけられていたのかもしれません。
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