なにかが甘くてたまらないのです

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★ 一週間後。金曜日。午後三時半。 フロアのテーブルに座るわたしの目の前にはアイスティーと丁寧に切り分けられたシュトーレンが並んでいました。そして向かいには主任の姿が。 綺麗なお姉さん方は皆、目的のスイーツを平らげ、散り散りになって仕事に戻っていったところでした。 「皿の数が足りないから僕は後で食べるよ」と、主任はなんて上手いことを言ったのでしょう。 その本当の意味は主任とわたししか知らないのです。 主任と向かい合って食べるスイーツは本当に甘く感じるのでしょうか。主任は悪戯っぽい顔をして、わたしが頬張るのを待っているようです。楽しげにわたしの顔を眺めています。 「いただきまーす」 わたしは心を踊らせ、フォークでシュトーレンをひとくち分とりわけ、口に運びます。 その瞬間、主任はわたしに向かって唐突にこう尋ねました。 「最近、きれいになった?」 はむっ、とシュトーレンを口にしたところでしたが、主任の言葉に驚いたわたしはそれが甘いんだかどうなんだかさっぱりわかりませんでした。 けれどもわたしは何食わぬ顔を作り、平然とこう答えます。 「あっ、そうですか? 先週食べたフルーツポンチの魔法の効果ですかね。モグモグ」 我ながらうまく返したと思いました。 実は、先週の金曜日、主任と約束をしたわたしはこうやって向かい合ってスイーツを食する状況を想定し、自分なりに気を遣って本気でスキンケアをし始め、化粧水や美容液を猛勉強いたしました。
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