なにかが甘くてたまらないのです

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その努力が報われたのかもしれません。 柄にもない努力をしてしまったのは主任のせいです。 わかっていますか、主任に褒められたいという気持ちがモチベーションになってしまったのですよ? だけど、面と向かって「きれいになった?」って言われてしまっても、素直に肯定できるはず、ないじゃないですか。 動機が動機なのですから。 ですから、綺麗になったとしたらそれは、先週ご馳走になったフルーツポンチの魔法効果ということにいたしましたのです。 「そうか、魔法が効いてくれたのかぁ。だから大人ニキビも消えたんだね」 主任はどこか白々しく、両腕を組んでうんうんと頷きます。 けれども考えてもみなさい、わたし。 日渡主任は美容広告部の主任ですよ? 肌のお手入れの努力、見逃すはずもございません。 主任はぽろりと口にします。 「でも魔法って、嘘だから」 その一言に、味わい中のシュトーレンがわたしの口の中から飛び出しそうになりました。 そして、わたしの心は次のひとことで丸裸にされたのです。 「努力してキレイになったんでしょ。」 そういった主任の右手人差し指はわたしを、左手人差し指は自分を指しています。 ……ああ、主任。わたしの乙女心の努力は、全部、全部、ぜーんぶお見通しだったのですね。 主任の悪戯っぽい笑顔は、ほんとうに魅力的で、コワイです。 顔が火照り、もはや主任の顔を直視することなんてできません。 逃げられないと覚悟を決めたわたしは、精一杯の小声で白状しました。 「はい、キレイニナッタカモシレマセンデス……」 わたしの胸中はもう、シュトーレンどころの騒ぎではありませんでした。
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