なにかが甘くてたまらないのです

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でもその時に気づきましたよ。日渡主任は昼食には不釣り合いの、大きな紙袋を携えていることに。 おっ? わたしは気づかないふりをしてすかさず視線をそらしました。 ……間違いない、今日の主任はしかるべき物を持参していらっしゃる。 実は、日渡主任はブロードHSJの社員で知らない人はいない、会社きってのスイーツ男子なのです。 それってどういうことでしょうか。 お菓子が大好きな甘党男子だってこと? いえいえ。 お菓子にやたら詳しいスイーツオタク? いえいえ。 そうじゃないんです。 主任はお菓子作りが、大得意なんです。 先週は、手作りのパウンドケーキでした。 その前は、手作りのシュークリームでした。 さらにその前は、手作りのシフォンケーキでした。 毎週金曜日、恒例の行事。みんなのパティシエが真の姿を現すのです。 ……らしいのです。正社員の皆様の後日談に聞き耳を立てたところによると、ですが。 なぜなら、わたしはそれらを食べてません。美しい社員の皆様と肩を並べて食べるわけにはいかないのです。非正規雇用のわたしが厚かましくも食べたいなんて言い出せないのです。 もう一度言います、わたしはそれらを食べたかったのです……あっ、間違って本音が出てしまいました。 金曜日、午後三時が近づくと、わたしは外回りのために席を外すのです。 そう、こぼれ落ちそうな涙とよだれをこらえながら。 だって、わたしは午後三時のスイーツ配分対象から外れているのですから。
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