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派遣のわたしが正社員の皆様に悪い印象は与えられません。
耳をそばだてつつ、背後で起きている事態を想像してしまいます。
「はい、簡単なものですけどどうぞ」
「わぁ、美味しそう」
「主任、これ、なんなんですか」
「食べてみたら分かりますよ」
主任は言葉尻でくすりと微笑んだようです。スプーンがグラスにはねる音がハーモニーを奏で始めちゃいました。ああ、正社員がうらやましすぎます。
「んっ、なにこの刺激!」
「わぁ、これ、一体何が入ってるんですか」
「斬新ですねー!」
歓喜の声が背後で聞こえます。
なんなの? 一体なんなの?
でもわたしは部外者。気づいてしまったらみなさんに気を遣わせてしまいます。
見ちゃいけない、気づいてはいけないんです派遣社員のわたしは。
頭の中に浮かぶ様々なスイーツを想像してはうち消します。
心の中から、画面の中心に向かって食べたいを叫びます。
そんなわたしが向き合う画面では、さっきからカーソルキーがひとますも進んでいません。もはや何のためにここにいるのか、さっぱりわからなくなってきました。
「実は秘密はコレなんですよ」
「へー、なるほどぉ」
「絶対、フルーツに合うなと思ったんです」
「ほんとおいしいですぅ~」
後ろはめっちゃ盛り上がっています。
はぶんちょのわたしはしょぼーんを通り越してこのまま泣き出しそうです。
画面が滲んで見えるわたしの背後を、美女たちの優雅で楽しい時間が過ぎてゆきました。
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