なにかが甘くてたまらないのです

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そんなアイドルたちを包み込むのは、宝石のように透き通ったジュレ……なのでしょうか、プルプルとふるえるゼリー状のなんたるかでした。 窓から差し込む夏の日差しが跳ねると、ジュレは果物たちのスポットライトに早変わり。 グラスの中ではキラキラと光が瞬き、まるで宝石箱のようです。 わたしは惜しげもなく喜びを表現し、グラスを主任から受け取ると、たまらず銀の匙でひとすくいします。 ジュレとフルーツは歓喜の声を上げるように匙の上で踊りました。もはや自分自身を止めることができません。 「では、いただきまーす」 ぱくっ! ……えっ、こっ、これはっ! 爽やかな果物の香りとほどよい酸味が一気に口の中に広がりました。 原産地はきっと異なるだろうに、長い旅の果てに果実たちはわたしの口内でめぐりあいました。まるでそれが運命だったかのように、フルーツたちは息の合ったハーモニーを奏でているのです。 シロップの甘さが先をゆくフルーツたちを、そしてわたしの味蕾(みらい)を追いかけてきました。流れ雲のようなふりをしてフルーツの酸味に調和し、甘い夏の午後の風景を鮮やかに描いてゆきます。 そのときです。 何かが口の中で弾け、穏やかな味の世界に波しぶきが立ったのです。舞い上がる泡沫の刺激はわたしの舌に降り注ぎ、味の感覚を支配していきます。
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