なにかが甘くてたまらないのです

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なんなのでしょうか、この爽快な刺激は。 ――そうか、これが主任のフルーツポンチに隠された秘密だったのね。 皆が盛り上がっていた理由がようやっとわかりました。 フルーツの上に乗った透明なプルプルはただのジュレではなく、爽やかな刺激を内に秘めた、サイダーでできたゼリーだったのです。 のどかなひとときの味わいのはずだというのに、まるで季節の移り変わりのように味覚の世界が色を変えてゆきます。たった一口で、味の記憶が脳裏に焼きついて離れません。 主任がこんな斬新なデザートを、午後のひとときのために準備していたとは驚きです。 蒸し暑い夏の午後に、この刺激は罪です。大罪です。 わたしが握るスプーンは瞬く間にグラスの隅から隅までを支配し尽くしました。 そしてわたしが自我を取り戻した時、目の前にあったはずの味の秘境は、すべて消えてなくなっていました。 ああ…… 満たされた、けれどももっと食べたい。 そう思って隣のテーブルを見ると、わたしの食べる様子を見ていた主任がくすりと微笑みました。 「美味しそうに食べるんだね」 上品な笑顔に胸が高鳴ります。 「日渡主任……」 「どうだったかな、即席で作れるものだから、あんまり自信がないんだけど」
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