なにかが甘くてたまらないのです

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そう言いながらも、優しい瞳には強い確信が宿っていました。そう、これは美味しくないはずがないのだと。 「ジュレのひと工夫で、こんなに美味しいフルーツポンチになるんですね。感動しました」 「この暑い夏、フルーツとゼリーは僕のオススメの組み合わせだよ。美容にもいいからね」 けれども、主任の発した「美容にいい」、その一言にわたしの顔はつい、曇ってしまいます。 「……あの、正社員の皆さん、どなたもきれいで、わたしなんか肩身が狭いです。化粧品メーカーの会社で働いていて本当にいいのって思うことすらあるぐらいです」 すると、主任は不敵な笑みを浮かべました。 そして、あたりを見回し誰もいないことを確認してから、そっと顔を近づけて囁くように言います。 「ふふ、僕のスイーツには綺麗になれる魔法がかかっているんだ。だからここの社員たちはみんな綺麗なんだよ。この秘密には誰も気づいていないけれどね」 そう言って主任は自分の唇の前で人差し指を立てました。 わたしはけっして子供ではありません。その秘密、まるっきり嘘なのは見え見えです。 本日のフルーツポンチはともかくとして、パウンドケーキも、シュークリームも、シフォンケーキも、美容効果があるスイーツとは到底思えません。 だけどどうして主任がそんな嘘をついたのか、その理由も見え見えでした。 そう、本当はわたしがスイーツを食べたがっているという、この本心を引き出すための作戦だったのです。 だからわたしは、その意図を理解した上で虎穴に入ります。 「わたしも、きれいになりたいです。魔法をかけられたいです」 すると主任は瞳を輝かせて面白そうに言うのです。 「まったく、君はいつもタイミングが悪い。せっかく綺麗にし甲斐があると思って楽しみにしていたのに」
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