春、遠く離れてしまっても

9/13
前へ
/100ページ
次へ
 結局早めに自習室に入っているとその後少しずつ人数が増えだしてくる。 「え?」  私の机の前で立ち止まった人がいて、見上げた瞬間に私も固まった。  なんで?  どうして?  だって今までいなかったはずで……。  やだ、やっぱりストーカー?!  目を見開いた私の表情に相手も悟ったようだ。 「っ、違う、今日からだから! ちょっと数学自信なくって週に二回通えって親から言われて、それで」  ブンブンと首を横に振って必死に説明するザッキーさんの腕を掴んで塾の外へ。  あんな大きな声で話したら皆の邪魔になっちゃう。 「ごめんなさい、まさかまた会うと思わなくてビックリしちゃって」 「だよね、絶対気持ち悪がってるってオレも焦っちゃって、大きな声出してごめんね」 「いえ、何か本当早とちりで嫌な思いさせちゃってごめんなさい」 「オレこそ、驚かせちゃって本当にふごめんね」  お互いに何度も謝り合ってるから何となく可笑しくなってきて。 「中戻ります?」  そう笑ったら山崎くんも、そうだねと。  今日からだったら手続きあるよね、と事務のお姉さんから貰う書類に記す部分を教えてあげて。  山崎 空翔(そらと)。  思わず、あって小さな声が出た。 「え? 書くとこ違う?」  私の声に焦る山崎くんに首を振って。 「違うの、空って本当の空なんだなって。私の海音のみは海だから何となく」  勝手に親近感湧いちゃうのは加瀬くんの名前見た時以来だった。 「じゃあ、空と海だ」  ね、と笑う山崎くんに微笑んだ。     「片山さんっ」  帰り道私に追いついてきた山崎くんは並んで歩き出す。 「もしかして市電?」 「うん、山崎くんは?」 「家、こっち。電停から歩いて五分」 「いいね、近くて。学校も近いよね?」 「そ、でもオレもバス通とか電車通とかしてみたかった! 後共学行きたかった」  アハハと笑う彼は私を電停まで送り届けると。 「じゃあね、また」  そう行って今来た道を引き返す。  え? もしかして途中に家があったんじゃ……。  夜道だから送ってくれたんだな、って。  その優しさに帰っていく背中に見えなくなるまで頭を下げる。  色々疑っちゃってごめんなさい。  初めて校外で出来た友達が山崎くん。  彼のいい人度はそれからどんどん増していった。
/100ページ

最初のコメントを投稿しよう!

163人が本棚に入れています
本棚に追加