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絶対に忘れないって思ったばかりなのに、いつかそうなるのかな、って思ったら、とても心細くなってしまう。
私の記憶の全部にアオイくんが居座ってしまえばいいのに。
他の誰も入り込めないくらいに独占してしまってくれたなら。
アオイくんの笑顔を思い出したら今来た道を引き返してしまいそうになる。
……、バカだな、私。
今日が最後の日、って決めてたでしょ。
なのに、どうして。
どうしてアオイくんじゃなきゃダメなの?
「どうして……、」
急に私の足が止まってしまったのは、後ろから強く抱きしめる人の腕のせい。
その袖の白さは、今日アオイくんが着ていたリブニット。
アオイくんの体温と匂い、どうして?
アオイくん?
「……、今日ね、めちゃくちゃ楽しくて、すっごい楽しみにしてて。でも半分は全然楽しめてなかった、本当は」
背中から響いてくるアオイくんの声が、掠れていた。
「今日が終わったら海音からバイバイって言われるんだよな、って。離れなきゃならないんだってそう思ったら心からなんて楽しめなかったよ」
アオイくんの言葉に振り向こうとしても押しとどめられているのは、その震える声のせい?
「拓海といた方が海音には幸せかもしんないって、ずっとそう思ってた。オレの側にいたらまた泣かせちゃうかもって自信なくて、だけど。やっぱ海音のこと、拓海にだって渡したくない」
やっと少し緩んだ腕の中でゆっくりとアオイくんに振り向いたら。
やっぱり私と同じ顔、してた。
泣きながら必死に笑ってる。
お互いの頬に手を伸ばして拭いあいながら、それでも後から後からあふれてくるものに苦笑して。
「東京、受かったよ」
「本当に?」
アオイくん、東京なんだ、近いね、また会えるよね?
神戸じゃないんだって、思ったらまた新たな涙がこみ上げてくる。
「まだ、もし、海音がオレのこと好きでいてくれるなら」
「っ、」
「もう一度、……、オレとっ、付き合ってくれませんか? 海音のことがずっとずっと好きだった、別れてからもずっと」
聞き間違えじゃないの?
夢じゃ、ないの?
呆然とアオイくんを見上げる私に。
「……、やっぱ、都合良すぎ、た……よね」
不安そうな顔をするアオイくんにブンブン首を振って。
違う、違う、違うのっ!!!
返事の代わりに思いきりアオイくんの胸に飛び込んで。
それから、ね。
大好きをどうやって伝えたらいいだろう?
いっぱいあふれちゃって止められなくなりそうで。
たくさんたくさん息を吸い込んで。
「私もね、アオイくんのこと、ずっとね、ずっと、」
言いかけた私を遮るように首を振って笑ったアオイくんが。
「オレなんか入学式の日からだよ? あれからずっと海音が、」
好き、だね、二人ともずっと。
同じ気持ち、確認し合って顔をあげて笑いあったら。
優しく目を細めたアオイくんとの距離が縮まって、ゆっくりと目を閉じた。
温もりがゼロ距離になって。
大好きがまた大きくなってく、きっとどこまでも。
―――恋をしたのは
【完】
アトガキ追加しました(2020/9/15)
https://estar.jp/novels/25637249/viewer?page=41
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