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突然、窓から現れたイザヤに、近くにいた女子達が、きゃああ!と、驚きの悲鳴を上げた。
「やっと見つけたぞ!陶也、こんな所に居たのか」
腕を振り上げ、燦々と降り注ぐ太陽の光を浴びながら、金髪をキラキラ輝かせて立つイザヤの姿は、日常的な学校の風景を一瞬にして、非日常に変えた。
女子達だけでなく、陶也も驚きの余り、言葉が出ない。
下では蒔田さんが、「何でそんな所に行っちゃうの!降りて!!」と大層ご立腹だった。
イザヤは鬱陶しそうに顔を歪めると、蒔田さんに向かって中指を突き立てた。
「通訳交代!!」
「そんなのだめぇ──!!」
耳をつんざくような蒔田さんの声に、陶也はイザヤに、諦めた方がいい、と説得した。
それを聞くとイザヤは残念そうに、「確かに後々厄介そうだもんな」と頭を掻いた。
「そんなことより、お前は大丈夫なのか?」
「うん。僕はここでのんびりしてますから、大丈夫です。滅多に人が来ないし」
イザヤがこうして3階に居る自分に気付き、真っ直ぐに飛んで来てくれただけで、今日の日は最高だった。
後は大人しく、いつものように過ごせれば満足だった。だから、パーテーションの仕切りを指差し、人が滅多に来ない事を示すと、イザヤに笑顔を贈った。
すると、イザヤはちらりとパーテーションを見て、近くにいた数人の女子達を一瞥すると、カーテンの裾を手にし、こちらにやってきた。
何だろう?と思って首を傾げていたら、陶也もろともカーテン内に引き込んだ。
突然、視界がアイボリー色に包まれたかと思うと、イザヤの唇が重なってきて、陶也は膝から崩れそうになった。
(何で、急に、こんな所で?!)
一瞬でカーテンを翻し、また姿を現すと、唇を思わず手の甲で押さえた陶也にイザヤは念を押した。
「また来るから、そこで待ってろよ!」
言うなり、また窓からジャンプして、旗ポールを掴むと、スルスルと回転しながら、地上に降りて行った。その鮮やかな身のこなしに、またまた歓声が上がっていたが、その声には反応せず、陶也を振り返って、飛びっきりの笑顔で手を振った。
アイボリーのカーテンが風でひらりと揺れ、陶也の頬を撫でた。
柔らかな風に包まれ、煌めいた金髪がさらさらと靡き、春の海のように澄んだ青い瞳が優しく陶也を見詰めていた。
その時の幸福感を、なんと表現したらいいのだろう。
この一瞬だけで、一面グレーの無機質な世界でしかなかった学校が、一瞬で鮮やかに彩られた。
カーテンの中で触れた、あの甘い唇の感触。あの笑顔を、陶也は一生、忘れられないだろう。
イザヤはまた、陶也にそんな一時をプレゼントしてくれた。
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