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 文化祭当日の朝だった。  滅多に鳴る事のない陶也の家のインターフォンが鳴り、訝しげに玄関の引き戸を開けると、目の前に蒔田さんが居た。 「ど、どうしたんですか?」 「おはよー。一緒に学校に行こうと思って、イザヤさんは?」 「ま、まだ支度中です」  まさか学校に着く前から蒔田さんがイザヤに絡んで来るとは思わなかった。 「あ!なんだ、お前!何でお前がここにいる?!」  後ろから車のキーを持ったイザヤが蒔田さんを指差した。  今日はお馴染みのテンガロン・ハットは被らず、服装も刺青が見えないよう、袖の長い黒のロンTにジーンズ姿だ。無難な格好のはずなのに、顔も良ければスタイルもいいから、何を着ても似合う。  そんなイザヤを頭の上から足の先まで、うっとりと眺めながら、蒔田さんはイザヤに近づいた。 「ちょっと打ち合わせも兼ねて、一緒に行けたらいいな~と思ったの」 「は? 打ち合わせも何もねぇーだろ? 俺がその辺チャチャと回って、ペラペラと何か喋ればいいだけだ。まさか、今日になって突然、何かやらす気か?」  イザヤは頬を引き吊らせた。 「別にそういう訳じゃないんだけど、予めうちの学校の出し物の説明をしようと思ってたの。ちょっと知っていた方が、会話も弾むでしょ。一応、この企画は、各クラスが英語でどれだけイザヤさんを的確に案内し、楽しませるかで賞品が決まるの。だからたっぷりイザヤさんにも楽しんでもらいたいの」  蒔田さんはイザヤの手を取り、男受けしそうな可愛らしい仕草でイザヤを見詰めたが、イザヤには通じず。蒔田さんの手を振り払い、冷たくあしらった。 「それだったら、俺に事前情報なんかいらねぇーだろ。知らない方が楽しいかもしれねぇ」 「そんなことないと思う!知ってた方が質問しやすくない? ねえ、如月くん」  急に同意を求められてしまった。 「どっちでもいいんじゃないですか?」  もう、ここまで来たら本当にどっちでもいい。きっと、何を言っても蒔田さんに丸め込まれる気がする。  そもそも蒔田さんの出したこの企画だって、学校を上手く丸め込んでる。  生徒会が出した企画はこうだった。  『グローバル化した今の社会に対応するためには、異文化交流が大切だとし、いかに英語でのコミュニケーション力を鍛えるかと題して、本当に使える英語を実感しよう!』  と言うのが主旨らしい。だが、陶也からしたら、生徒会の職務と題して、  『蒔田さんが文化祭でイザヤといちゃいちゃしながら楽しんじゃお!(♡)』  としか思えない。絶対、そっちが本来の目的なんだろうと思う。本当にちゃっかりしてるというか、ものは言い様と言うか……、女の子って怖い……。 「では、行こうか」  と言って玄関の鍵を閉め、イザヤがスマートキーのボタンを押して車を解錠すると、ものすごいスピードで蒔田さんが助手席に滑り込んだ。  陶也とイザヤは二人で呆気に取られた。    イザヤが乱暴に助手席のドアを開けて、「何で、てめぇがそこ座るんだ!後ろ行け!」と顎をしゃくった。  だが、 「嫌よ!話がしたいって言ったでしょ!」  と、歯を剥いて威嚇され、二人は茫然とした。  こいつは梃子でも動きそうにないな、と陶也とイザヤは顔を見合わせて溜め息をついた。  
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