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「お……お爺ちゃんの孫って……アメリカの何処に居たの?」
(まさかあの囚人服を着た少年がそうなのだろうか?)
陶也は一抹の不安を覚えた。祖父の孫が犯罪者だなんて思いたくない。
「ウェスト・バージニア州だ」
「ど、どんな人なの?」
「強くて、裏表のない、真っ直ぐで優しい子だよ」
陶也は言葉を失った。さっき、一瞬だけ脳裏に現れた少年は、祖父の孫ではないのか?
祖父の言う”優しい子”と、さっきの少年とではイメージが違い過ぎる。
陶也は不安を覚えながら、「取り敢えず、犬の散歩に行ってくる」と、言って立ち上がった。
祖父が心配そうな顔で追いかけて来たが、陶也は「お爺ちゃんはゆっくり休んでて、夕食は僕が作るからね。絶対にゆっくり休んでるんだよ」と言って、床の間を後にした。
ふらふらしながら犬にリードを付け、玄関を出る。
通りに出て、陽の暮れ始めた杉林の中を、力なく歩いた。
祖父が居なくなる不安と、日本にやって来るという従兄弟の存在が、陶也の不安に拍車をかけた。
「強くて、裏表のない、真っ直ぐで優しい子……」
陶也の理想とする姿を、祖父は従兄弟に対して口にした。
胸中に、どす黒い煤が溜まっていくような感覚がする。
先ほど脳裏に浮かんだ、囚人服の少年が本当に従兄弟なのだろうか?
確かに視線は真っ直ぐで、力強い意思を感じた。裏表が無い人といったら、そうなのかもしれない。でも、陶也には、彼の眼光が少し怖かった。
赤く染まる夕日の中で、祖父との短い時間をどう過ごしたらいいのか、不安を抑えながら陶也は瞳を伏せた。
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