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 ──翌日。陶也が市立春日谷総合病院へ着いたのは、蝉の合唱が鳴り止まぬ真夏の午後であった。  3時には病院へ行くと、約束していたのに、30分も遅刻してしまっている。駅前での思わぬ工事渋滞のせいだ。 (今日はアメリカから例の従兄弟が来るというのに、こんな時間になってしまうなんて……時間にうるさい人でなければいいのだけれど……)  陶也は汗ばむ額をハンカチで拭いながら、面会の受け付けを済ませ、慌ててエレベーターに乗り込んだ。  祖父の病室がある階のボタンを押すと、ドアが閉まる寸前、看護士の手が伸びて、また開いた。  数名の患者と看護士がエレベーターに乗り込んでくる。  陶也は他人に触れないよう、ショルダーバッグを抱え込み、脇に寄って縮こまっていた。しかし、エレベーターが動き出すと、一人の妙齢の女性がふらつき、陶也の腕にしがみついた。  ──しまった!と思う間もなく、陶也の脳内をあり得ない画像が展開して行く。  それは早送りをしているような、巻き戻しをしているような、どちらとも言えない不思議な感覚だった。それと同時にやって来る、自分のものとも、他人のものとも言えない混沌とした感情。女性に触れられた瞬間。彼女の人生が陶也の身に流れ込んで来た。そして、陶也を包む情景が変わる。
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