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更に続けた桃郎。その表情に自嘲も見えるのは、気のせいだろうか。
「父様、構わないでしょう」
悩む斗鬼を無視して、桃一郎へ話を投げる桃郎。桃一郎も、それへ頷いた。
「学習の場を提供するのも筋だね。そうしなさい、桃太も喜ぶ」
桃一郎の賛成にまだ悩む思いはあった斗鬼だが、桃郎の言葉は大きい。真鬼はともかく、まだ幼い優鬼や光鬼にそんな窮屈な思いをさせたくはない。母も気を使うだろうしと。
「有り難う御座います」
何から何までと、不甲斐ない思いがあるのは正直な所。だが、ここまで自分の為に尽力してくれる黍家の印象は斗鬼の中で確実に、大きく変わっていた。それに何より。
「先輩、僕嬉しいです……」
自分の言動一つ一つに、忙しく表情を変える可愛い桃太。桃太の為に、桃太に相応しくある自身の為にも必ずと。斗鬼は、表情を引き締め桃太の手を取った。
「桃太、俺は必ずやり遂げてみせる。だから、その時は必ず鬼ヶ島へ来て欲しい」
何時も澄ましている斗鬼から、家族の前での公開プロポーズだ。桃太は、驚きと幸せに一瞬目眩を覚えた程。けれど。
「はいっ。僕鬼ヶ島へ行きます、絶対行きますっ」
桃太は、そう答えて斗鬼の胸へ飛び込む様に身を寄せた。抱き締められる強い腕の中は、本当に本当に幸せで怖い位。
今は昔。阿漕な商売で人を困らせる、悪い鬼がいた。そんな鬼を成敗しに、鬼ヶ島へ向かった黍家の御先祖は、多くの金銀財宝を持ち帰り英雄となる。
そして。その子孫も又、鬼ヶ島へ向かう事となるなんて。
只、鬼の成敗は出来ません。その英雄の子孫は、鬼ヶ島の長へ首ったけ。金銀財宝と家来を引き連れて鬼ヶ島へ向かうその理由は、お婿入りなものですから。
――完。
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