やまない雨

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 彼女のことが知りたかった。もっと。彼女と話してみたかった。でも、どうすれば話しかけることができるのか分からなかった。  だから、彼女が読んでいる本の表紙をそっと盗み見て、彼女が読み終えた次の週に俺もその本を読んでみた。わざと表紙を彼女の方に向けて。  読んでいる間中胸がドギマギしたが、彼女は一向に俺の方を見る素振りを見せなかった。作戦失敗かと思ったけど、俺がもう少しで本を読み終わりそうなタイミングで彼女は席を立ち、俺の横を通り過ぎる時に一枚の紙を落とした。  イラストの描かれた紙。それはまさに俺が今読んでいる本のワンシーンを表現したものだった。繊細だが暖かみのあるタッチのイラスト。それは俺が本を読みながら頭の中に思い描いていた世界そのものだった。
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