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「……ッはぁ! お前フザケすぎだ!」
悠斗は片手だけになった拘束を無理やり振り切り、視界を覆いかぶさっていた巨体を押しのける。
――重っ……
「ふぅん? こんな状況なのに、冗談とか思ってるんだ。残念ですね悠斗先輩。俺は栗頭とは違うので、今度は悠斗先輩の期待に応えますよ」
「はぁ!? だからそれがフザケテルって言ってんだよ! だいたい期待なんかしてないし」
さらりと恐ろしいことを言われた気がして、紛らわすように大きな声をだした。
そうじゃなくても、こんな状況良いわけがない。
――とりあえず距離をとらないと……
押しのけたものの、いまだ立ち憚る巨体。
「ほら、そこどけよ」
そうは言ってみたが一向にどく気配はない高宮。
痺れをきらし、悠斗はその足に力を入れる。
人をかわすなんて簡単なことだ。
ほんの一瞬かわせばいい。
「行かせませんよ…ってッッ!?」
長い腕を主張するかのように伸ばされた手を一瞬イラッとしながらかわし、一気に走り出す。
――よし! これならいける!!
しかし、束の間の逃避行はすぐに幕を閉ざしてしまう。
ドアの前までたどり着き、絶望を通り過ぎたかに思えた悠斗の体は全身を喜びで打ちひしがれていた。
これを開ければ廊下に出れる。その思いだけが先走っていた。だから、ドアが開かないなんてことを考えているはずがなかった。
必死にドアまでたどり着いた彼をみて、高宮は静かに笑みを浮かべた。
ガチッ
「!?……あ…あれ!?」
ガチャガチャッ
「なんで開かないんだよ!?」
その悲痛叫ばれる言葉を聞きながら、軽やかに高宮の足音が近く。緊迫した空気。破ったのはやっぱり……
「ゆーとせんぱーい?」
「ウワッ!? 」
耳元でささやかれ、心臓が爆発しそうになった。
不意打ちもいいところだ。
今だにバクバクと激しく鼓動する心臓を必死に押さえつけようとする。相手におびえているなんてことを高宮に知られてしまうことが嫌でたまらない。
「ゆーとせんぱい? そんな恰好でここから飛び出すつもりなんですか?」
振り向けば、お互いにもう10㎝あるかないかあたりまでに顔が接近していて、あわてて俺は横に顔をそらす。
追いかけるようにして、高宮の手がその横に添えられた。またそれを避けるため、反対の方向に顔をそらした際にも、反対の手がその横に添えられた。
なんでだよ……
行き場のなくなった視線が、高宮の顔と手をキョロキョロと交互に移動し、結局自分の足を見つめるところに落ち着く。なんで……
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