春、序章

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「お前の顔が嫌いだからだ」  抑え込んで最小にした声が、静かに廊下に響く。  すぐに消えてしまったが、当然のごとく、目の前の高宮には聞こえていただろう。  すっと背中が冷たくなる。  嘘は言っていない。  ただ、相手のことなんか気にしない、自己中心的なタイプの高宮京悟にとってそんな問題は全く関係がないんだ。  だから、今俺が必死に嫌いだと主張しても、高宮京悟は笑顔をさらに明るくするだけだった。  逆に、嗜虐的に視線を交えて俺を見てくる。 「ハハハハハ……嫌いっかぁ~。まいったなぁ~。でも、先輩のそのすごく不機嫌そうな顔が見れるのもいいかなっておもうなぁ。もっと、嫌そうに悩んだ顔が見てみたい」  高宮の声が怪しく熱を帯びて低くなった。 ヤバイッ  思った時にはもうすでに、高宮の顔が俺の顔をとらえていた。 「んぅ!」  唇と唇が触れ合い、痺れに似たものが広がる。  驚いて、目を見開いている俺の口内に、スルリと高宮の舌が滑り込む。 「ふっぁ……んぁ」  舌を絡めるように甘く吸われると、ゾクゾクという感覚に頭がボーッとなる。 「ハァ……やぁめ」  押しのけようとしても、高宮の手によって壁に縫い付けられている状況ではピクリとも動かせなかった。  蹂躙する舌が、俺の口の隅々まで撫で上げ、甘く疼くその感覚に腰が揺らめいた。  時折かすめる上歯の裏側に、ピクリと肩を揺らすと、集中的に高宮がそこを舐めあげられる。 「やぁ……ホント……高宮ぁ……」  そこを舐めあげられると、腰の力が抜けてしまうそうになる。 「先輩……じゃあ今日も、俺奉仕してもらおうかな?」 「!?」  甘い感覚ではなく、今度は恐怖に俺の体がえた。 「アハハハっ…じょーだんですよ。そんな怖い顔しないで下さい。委員長さんが朝から遅刻じゃあ顔潰れちゃいますもんねぇ?」  馬鹿にしたように高宮が肩を大きくすくませた。  ウザい。  その馬鹿にしたような仕草も、声も、整った顔もウザい。  だけど、そんなことを今、こいつに言うことはできない。  なぜなら、高宮は今、悠斗の最高に大事な秘密をその頭の中にインプットしているからだ。  過去の悠斗のこと。  でも、別にやんちゃしてたわけじゃないし……うん。人殴るのと嫌いだから。うん……
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