31人が本棚に入れています
本棚に追加
Ⅰ
俺が仕事を辞めて、もう一ヶ月は経つ。
再就職しようにも軒並み落ちてばかり。やる事が無いから、一日中酒を飲むようになっていた。
酒で昼夜逆転した生活。
この日の夜も目が冴えてしまい、俺は酒を買った帰りに河原を散歩していた。
首都高の外灯がオレンジに輝き、川と交差している所が水面に映る。深夜とは思えない明るさで、昼夜逆転しているようだった。
俺は、歩きながらコップ酒を開けて飲んだ。
河原での歩き酒もオツなものだ。
キャハハ……。
女性の笑い声?声がした方向を見る。
小さい橋があった。
その下から確かに聞こえる。
女の子の、何かがぶちギレたような笑い声。
橋の下にはスポーツバイク。
俺は、土手を降りてみて堤防に降りてみた。
橋の下に誰かいる。若い女性の声だろう。
俺は、橋の下に向かって声をかけてみた。
「ねえ! キミ独り?」
我ながら、ナンパみたいな情け無い声。
笑い声が止んだ。女性の影。
俺は、橋の下に入ってみた。
俺の背では頭が当たる高さだった。仕方ないので腰をかがめてヨタヨタと進んだ。
誰? と声がした。
マトモだけど呂律が回っていないようだった。
酒の匂いがした。
「そっちこそ何やっているんだよ」
俺も返事するが、今更自分も呂律が回っていない事に気付いた。
飲み過ぎているなと思った。袋が地面を擦れてガシャガシャ音を立てている。
橋の下は暗黒。
懐中電灯を持っていないのもあるが、彼女を照らしているのはスマホだけで影でしか分からない。
「ねぇ、そこの自転車ってあんたのか?」
うん、と彼女は答えた。声が艶っぽい。
「それって、酒?」
そうだ、と答えた。
「よかったら、飲む?」
「ありがとう、助かるぅ! 手元に無くて困ってたのよぉ!」
真っ暗で分からないのによくそんな事を。
そんな俺の考えを読んだのだろうか。
「あたしだって同じなの。どんな奴が来たんだかわからない訳だし。レイプされるかもしれないじゃない。そんなの分かる訳ないじゃ無いの」
図星。俺もこの女が分からない。逆に殺されるかもしれないのだ。
最初のコメントを投稿しよう!