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Ⅱ
「俺、ショーイチ、仕事を辞めてプータローやってる。君は? 」
「ヒバリ。あれで旅行してんの」
自転車を指差した。
見え透いたテキトーな名前。
美空ひばりかよ。もう少し考えろよ。
まあ、いいか。
「何がいい?」
「チューハイ無い?」
「レモンでいい?」
「サンキュー!」
「カンパーイ!」
俺はライム。
「乾杯!」
暗闇の中でカチン、と鳴った。
ゴキュって、喉を鳴らす音がする。
橋の下の暗黒。
ヒバリと呑んで大分時間が経った。
そこに、弱い光に照らされたバッグがあった。
中に一杯の札束が入っていた。
「人を殺しちゃってさ、札束を奪って来ちゃったの」
おいおい、強盗殺人じゃねえか。
「一人暮らしの金持ちのお爺さんと知り合ってさぁ、愛人になってあげるって言ってやったら、即コロリよ。面倒になってきたから殺しちゃった。ホンッと、退屈しないのよね。お金にも困らないし♪」
ヒバリは俺を見てニッと笑った。
冷たい刃のような笑い。バサッと斬られそうだ。
「男ってね、みんなバァカ! あたしっていう美少女に口説かれてさぁ、簡単に落ちるんだもの。あたしにとって男は、みぃんな使い捨てみたいなもの? よねぇー」
目の前の女は一体何者だ?
暗闇で女の姿は見えなかった。見えない怖さ。何者か分からない怖さ。暗黒の中の恐怖。
俺も殺されてしまうのか?
抱き締められた。
「逃がさない……♪ 」
ねっとりとした声。
俺は叫ぼうとしたが、出来なかった。
俺の唇には、女の唇が重なる。
熱い。でも氷のように冷たいキスだった。その時唇に針でも刺されたのか、チクっと痛みが走る。
俺は意識が朦朧として……、後はもう、覚えていない。
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