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「ほう、ロボットが無理矢理あなたを連れ帰ろうとしたということですか? そのときにロボットが誤ってどなたかを怪我させましたか? あるいは、あなたご自身を傷つけた?」
「なんでこいつは迎えに来たんだよ? 迎えに来て、あたしの腕をただ黙って掴んで、連れ出して、『夜中は危険だから』とか言って、あたしはこいつの向こう脛を蹴って、暴れて。だのにこいつは怒りもしないじゃん。ひとつも怒鳴らないじゃん。手もあげないじゃん!」
「あのですね、ミス・スコット」
「勝手にタバコ銘柄コレクションを全部捨てても怒らないし、こいつに死ねって言っても怒らないし、ママの指輪隠しても怒らないし、あたしっ、あたしがマンションの屋上から飛び降りようとしても──」
「あのね、ちょっと落ち着いて僕の話を聞いてくださいね」
カウンセラーの手配をしないと。百戦錬磨のカスタマーサポーター・レイモンドは、すぐに問診票タブからヘルプタブに切り替えて、『危険要項あり』メールを送信した。
「あのですね、弊社のロボットには倫理制約というものがございまして。人間に奉仕し、人間の生命を守るという使命がある以上、ロボットがあなたに『怒る』『叱る』ということは決して行わないようにプログラムされています。なぜかといえば、怒る──具体的にあなたのおっしゃるような『怒鳴る』という行為は、最悪の場合、人の精神にトラウマを植え付けることになりかねませんので」
「これのことをあんたらは、パパの思考をトレースした、って確かに言った。トレースAIロボットだって。だったら、なんでこんなにオリジナルと全然違うんだよ?」
メイはレイモンドと向かい合っているテーブルに両手をつけたまま、荒い息をした獣のようにこちらを見据えていた。叫んだ。
「こ、こんなの、あたしのパパじゃないっ!」
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