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プロローグ:死ぬ直前に見た光景
自分の置かれている状況がいまいち飲み込めない。
腹部に熱ともとれる痛みに意識が朦朧とするがフローリングの床に倒れているのは遅れて理解する。
そこに手を触れれば、腹から何かが生えていた。
掴んでみると妙に握り易く手に馴染む。
「ほう、ちょ……う?」
その刃の鋭さは今まさに自分の身体で体感している。
包丁にしては妙に細長い。
本来は魚を捌く筈の鋭利なソレが皮膚を、筋肉を、内蔵を、裂いて貫く異物感。
「――ぁ、あ゛……」
吐血。
一秒毎に死が近づいているのが分かる。
力めば力む程、自分の残りが擦り減る実感もある。
怖かった。
信じたくなかった。
「ぁ゛ぁ……!!」
手を伸ばす先にある現実を。
血まみれの両親。
見知らぬ男に床に押さえつけられる妹。
「ぁ゛ぁああぁ゛――!!!!」
腹の包丁を引き抜いて、立ち上がる為に力を込める。
叫び、再び血の塊を吐き出した。
それでも無理やりに一歩を踏み出して、俺は――俺の全てを使い切った。
――筈だった。
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