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◇
「此処が『試練の場』です」
レヴァが俺の後に足を踏み入れて、そう告げた。
『試練の場』は先ほどまでとは、ガラリと世界観が違っていた。
壁や床、天井までもが、石畳で隙間なく、綺麗に舗装されている。
明らかに自然のものではない。だが、人工物とも断言できない程に整い過ぎていた。
光源は、半透明の結晶の中に浮かぶ光。それが、廊下にある蛍光灯の様に等間隔で並んでいる。視界は良好だ。
通路は両手を広げても、十分に余裕がある広さ。
気温や湿度も高過ぎず、低過ぎない。
丁度良く空調のきいた部屋の様ではある。
しかし、不思議と息苦しさを覚えた。
安易に足を踏み入れてはならないと直感する。
――迷宮(ダンジョン)。
そんな単語が浮かぶ。
「……なんだ、あれ?」
しばらく直線の通路を進んだ先に、何かがあった。
一〇メートル以上は離れているが例の『神の力』とやらで視力も強化されているらしい。
意識の集中で望遠鏡を覗いたように拡大される。
大雑把に言えば各パーツが簡略化されたデッサン人形のようなシルエット。
細身の一七〇前後程度の身長。
全身は白で顔が無い代わりに中心に拳程の紅い玉が目の代わりという風に埋め込まれている。
しかし、その手だけはやけに精工で一振りの剣が握られていた。
「あの傀儡が貴方の相手です」
レヴァが静かに口を開く。
「アレにも微力ながら『神の力』が宿っています。強さは森に居た魔物と同程度。膂力や速力は並みの人間以上。いかに『力』を宿した貴方でも致命傷を受ければ命を落とします」
その言葉に促された様にその傀儡は操り人形の様に不気味でいて滑らかに動き出す。
腰を落とし地面を蹴った刹那、
「ぁ゛っ――!?」
目前に剣を振り上げた傀儡が迫っていた。
一度の瞬きの内に、一〇メートルを詰める速度。
見ていた動画の途中をすっ飛ばされた様な感覚だ。
「っ゛!!」
宙に浮いている様な緊張の中で兎に角、意識を研ぎ澄ます。
振り下ろされる剣の動きが緩やかになり、何とかその刀身を盾で受ける。インパクトの瞬間、全身に衝撃が突き抜けた。
膝が折れかける中、拡張された感覚で剣が更に押し込まれるのが分かる。
相手と俺の装備の質は同等なのだろう。盾は刀身をしっかりと防ぎ腕ごと斬られる事は無いだろうが、純粋に押し負ける。
「なろっ!!」
痺れる腕の角度を無理やり変えて、刀身を盾の曲線で往なしつつ腕を振り払う。
剣を弾かれ体勢を崩し、たたらを踏む傀儡に反撃。
がら空きになった右肩からの袈裟切り。
硬い粘土を斬りつけたような抵抗が柄から伝わった。
だが、止まる程じゃない。
「――っ!!」
更に力を込めて、そのまま引き切った。
血は出ない。骨や内臓もなく全身が粘土の様な素材らしい。
加えて傀儡というだけあって痛覚や感情はないのか斬られても尚、俺を殺そうと腕を振るう。
「このっ!?」
傀儡の剣先が頬を掠めて、胆を冷やした。
この様子では手足を斬り落としても意味はないだろ。
臓器が無いのなら、心臓を抉るにも抉る物が無い。
ならば、決定打に成り得る一手は――
「――おらぁ!!」
紅い玉が埋まる頭部。
どんなに強い魔王だろうがエイリアンだろうが、『超速再生』や『不死身』のスキルが無い限り、
「大抵、首飛ばされりゃ死ぬしかねぇだろ!」
すれ違い様、軽く跳びながら剣を振るう。
体重を乗せた力任せの一閃。
頭部を飛ばされた白い体は砂が崩れる様に霧散した。
「お――とぉ……?」
少しふらつく様な妙な感覚に眉間にシワを寄せていると不意に、壁にこびりついた不自然な赤黒い染みが目についた。
なんだこれ、と目を凝らしていると、
「初陣にしては上出来です」
レヴァは言葉ほど感心していない様子で素っ気なく肯いた。
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