第一章『チュートリアル』

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◇ 「――お、あの団体さんが最深部の試練ってやつ?」 「いえ。あの奥の扉の先がこの試練の場の最深部です」  傀儡との初戦の後。ダンジョンを進む事、三〇分位か。  ダンジョンと言っても迷宮、という訳ではなく途中行き止まりや小部屋などはあったが極めてシンプルな造りで、壁に手を当てながら進めばゴールには遅かれ早かれ辿り着けるものだった。  ただ構造を考えると既に崖から出ていてもおかしくない筈だが、ダンジョンは続いている。  神様が用意したダンジョンという事だけあり、何でもありなんだろう。  道中倒してきた傀儡の数も二〇を超え、中には一対多数も何度かあった。  その末に辿り着いたひと際大きな部屋。  入り口付近の俺達から一〇メートル程先に剣と槍をそれぞれ携えた傀儡が並びその後ろに弓持ち。更にその後ろには全体的の筋肉が極端に発達したような強靭な四肢の三メートル近い巨体がハルバートを携えている。  その奥にお馴染みとなってきた扉と言い張る壁。 「ボス戦前の中ボスイベントって?」  相手は四体。しかも後方の傀儡は今までに無い重量級だ。  今までの戦闘の中で難易度は最大だろう。  まぁ、 「――全然」  ただ、その程度の事だ。 「余裕だねっ!」  俺は剣を握り直し自分の中に意識を向けた。  己の中に本来はない与えられた規格外の力がある事を自覚する。  全身の血管や神経を回路に見立て、スイッチを入れ電気を流す様に神の力を起動させる。  瞬間、俺の身体は“並み”ではなくなった。  身体は軽く剣と盾の重さも感じない。強引に、だが滑らかに強化された実感。  それは謂わば、『疑似的で限定的な神格化』 「我ながら厨二臭ぇわな!!」  周囲に神の力が揺らめく薄白い風として視覚化し、唸る。  俺の戦意に反応したのか傀儡達も動き出した。    前衛の剣持ちと槍持ちが奔る隙間を後衛の弓持ちの一射が抜けてくる。  研ぎ澄ますだけ研ぎ澄ました意識の中で視認する。狙撃銃か何か、と思う程の正確さと速さで不自然な程に一直線に飛来する矢。 「っ!」  それの鏃にピンポイントに剣を振り下ろして迎撃。  その直後に先に肉薄したのはリーチの長い槍持ちだ。  突き出される槍を盾の曲線で受け流して軌道を逸らし、こちらの剣の間合いで槍の柄を掴む。  グンっと掴んだ槍を引いて、体勢が崩れた傀儡の首に一閃。  刎ね飛ばされた傀儡の首が地面に落ちる前に、剣持ちが横薙ぎに叩きつけてきた。 「このっ」  ソレに合わせ、剣を振り上げてのパリィ。    強化された膂力で振るった剣は音の壁を突破し、大砲の様な炸裂音と共に生じた衝撃波で傀儡は大きく弾かれた。  音速を超えた飛行機の翼の様に、薄い雲が発生する程の速度と威力だが、互いの剣は無傷。  やはり神の力は諸々物理法則とか度外視する様だ。もう何度も無茶な扱いをしているが、刃こぼれ一つしていない。    ならばと、 「――おらぁっ!!」  その返す刀で傀儡の脳天に渾身の一撃を打ち下す。  超音速の刀身が斬り裂き、先ほど以上の衝撃で傀儡の身体が弾け飛んだ。 「っ゛!?」  その残骸の中を二射目の矢が抜けて来るのが見え、背筋が冷える。  懐に入られた。剣で払うのも盾で受けるのも無理な距離。  目の奥に激痛が走る代わりに、視覚が更に強化される。  鏃が目と鼻の先の所で、半身を引いて首を反らした。  右頬を掠めて息が詰まる。
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