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◇
試練の場の最深部。
そこはまた異質な場所だった。
下手な体育館より広い筒状の部屋。天井は見えない程高く、壁に松明などの光源は見当たらないが晴天の下の様に明るい。
部屋、というより塔の様に思える。
雲から差し込む陽射しの様により光が照らされたその中央。
例の如く傀儡が一体。
だが、その風貌は大きく違う。
全体的に流線的で細身な全てに至るまで純白のフルプレート状。
鎧のリアスカート部のマントの様なスカートもあってか、どこか女性的にも思える。
手にする十字架の様な大剣を胸の前に構え、天に祈りを捧げている様に思えた。
その背にある一対の鳥の様な翼はそれこそ――
「……天、使?」
神々しさ、というのだろうか。絵画にありそうな絵図らだった。
「アレが転移者の資格を確かめる為の『下位天使』です」
彼女に応える様に翼を広げ、ふわりと浮いた。
羽ばたいた訳では無いがその辺りは天使という事で浮遊アビリティでも発動しているのだろう。
ヘルムのスリットから紅い光を目の様に輝かせ、白い大剣の剣先を俺に向ける。
「□□□」
甲高いノイズの様な音。
「この天使を倒すことが出来れば試練を達成したものとします。戦いの中で【神装】を会得し、対象を撃破して下さい」
「OK。それじゃ――」
レヴァの声を合図に俺は全身の強化を開始。
「行くぜ!」
姿勢を低く脚に力を入れて踏ん張ると床に沈みヒビが走る。
靴底が僅かに沈むが構わず弾丸の様に飛び出して天使までの数十メートルを一息で肉迫。
その横をすり抜けて剣を無防備な背中に叩き付ける。
音の壁を破る速度と威力だ。
片翼を吹き飛ばすには十分な筈。
まずはその飛翔能力を潰す。
――もらった!
その確信とは裏腹に、剣が不意に止まった。
硬いゴムの塊でも殴った様に、衝撃が吸収されて散っていくのが伝わる。
「……ぁ?」
加速した意識の中で視認するが、理解が追い付かない。
音速を超える鉄の剣が白い細腕一本に止められているなど。
疑似的な神格化に強化した全力の一撃が、僅かに食い込む程度など。
完全に不意打ちだった筈なのに、それ以上の反応速度など。
納得出来る訳が――。
「っ!?」
天使は腕を振り払い剣を弾く。
たたらを踏み、手から柄が抜けそうになるのをグッと堪えるのがやっとだった。
「――□□□」
握手を求める様に何気なく突き出された大剣を咄嗟に盾で防ぐが、車に撥ねられた様な衝撃に息が詰まった。
盾に白い刀身がめり込み、全体に亀裂が走る。
「なぁっ!?」
そして、腕が押し出されるように弾かれて盾が砕けて飛び散った。
鈍く軋む痛みが遅れて腕の感覚を奪う。
「――あぶっ……!」
盾を半球状の小盾にして正解だった。中途半端な防御姿勢だったのが幸いした。
もし真正面から受けていたら腕ごと串刺しになっていただろう。
だが、安心したのも文字通りの束の間、断崖に立たされている様な感覚に襲われる。
「――っ!?」
『神の力』で強度を引き上げられた盾を一撃で破壊する白い大剣。生身で受ければどうなるか想像もしたくない。
加えてこちらの剣は通じない。
――無理だ。
つけ入る隙が微塵も無い程に身体も武器も質が違い過ぎる。
あの大剣は否、天使自体がレヴァの持つ【大鎌】――【神装】と同質なのだろう。唯一の勝算がその会得というのも納得だ。
だが、肝心の【神装】が何なのか分からないまま。
レヴァは戦いの中で、と言っていたがこの差でそんな余裕なんかあるか。
「くそっ!」
強化した脚力で床を転がる様に大きく距離をとるが、喉元にあの大剣を突き付けられている様な気分だ。
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