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「自分から言ったのではないですか。非難さる謂れはありませんよ」
情緒が大分不安定な俺を余所に、このお姉さんは溜息一つで済ませやがった。
「何だと!? 思春期特有の言いようの無いこの気持ちをどうしてくれる。こちとらファーストだっての、ロマンスの欠片も無かったよ畜生! ってか、言われたからって素直にしちゃダメだろ!? 案外、貞操観念が甘いのかしら!? そんな破廉恥な恰好して、健全男子の事も考えて欲しいのだがねっ!」
「……本当に騒がしい方ですね、貴方は。たかが口唇の接触です。初回がどのようなモノであれ、生きる上で支障は無いでしょう」
「初回とか言うなし!? 確かにねぇけど、大事な甘酸っぱい思い出だこの野郎!」
「……このような事で何が分かるかは知りませんが――」
レヴァは、うんざり気味に疲れた溜息を漏らし、改めて俺に向かう。
「“コレが現実”だと、実感は出来た様ですね」
不敵にそして冷ややかな笑みを浮かべた。
「ぉっ……」
絶望に膝から崩れ落ちる。
いや、初めから夢じゃないことは分かっていたよ。
普段から見る夢も、夢だと分かる方だったりする。
それでも無理やりに現実逃避していた俺の努力乙だ。
だって異世界に召喚とかそんな簡単に飲み込めるものか。
しかし、軽い自暴自棄の戯言を真に受けるお姉さんもお姉さんではないか。
余計な事を言ったと、後悔するが――俺だけが悪い訳じゃないやい……。
向けようの無い気持ちを晴らす様に、やわやわなパンチを床に何度も叩き込む。
『ダメージ一』の連続攻撃を終えた頃、
「気が済みましたか? では、行きましょうか」
レヴァは踵を返し、唯一の扉に優雅に歩む。
ソレに手を掛けて、肩越しに振り返る。
彼女は俺を見て、
「――貴方の旅路の始まりです」
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