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◇
また小一時間程歩き続けた後。
ズラリと並ぶ、門の様に互いを支える岩の柱の隙間を潜り辿り着いたのは崖で、行き止まりだった。
ただ、その崖には不自然な壁がはめ込まれている。
明らかに自然のモノじゃない。だが、人工物とも言い難い。
大理石の様なツルツルとした質感で、細かな模様や文字が彫られていた。
大きさに関しては、巨人が拵えた様に思える。
「――んで、此処が何だって? 神様の試練だとかがあるんじゃないのか? 早くお家に帰りたいのですが?」
やはり、体力はチート染みている様で、身体的辛さは無い。
しかし、メンタル的には大分きている。
確かに森林浴は癒しになるが限度がある。疲れたからといって、寝過ぎると余計に疲れるアレと同じ道理か。車の排気ガスの臭いや人込みの喧噪が恋しくなってきた。
それにまたいつ魔物に襲われるかと思うと気が気じゃない。
うんざりとした溜息に、
「えぇ。その為にこの場所に来たのです」
レヴァは答える。
「さぁ、この扉に触れて下さい。貴方が真に『器』としての資格があるのなら、『試練の場』への道は開かれる筈です」
言われるがまま、取りあえずその扉に触れてみる。
ひんやりとした感覚の直後。
「ってか開くも何もただの壁やし、そんな雰囲気なぉっ……とぃ!?」
扉が消えた。
色が薄くなり、その存在そのものが初めから無かったかの様に消え去った。
「……ぇー」
脳内で某人気ゲームのギミックを解いた時の効果音が再生される。
呆ける俺に、
「貴方は『器』として十分な資格があるようですね。その資質を誇るべきです」
レヴァは小さく頷いた。
……何がやねん。
「いやいやいや!? 素質があるって異世界に呼んだのそちらですよね!? 試練も受けられないパターンもあんの!? 詐欺!? 異世界転移詐欺!?」
「『神の力』をその身に宿す素質とソレを使う資格はまた別の話です」
と、レヴァは俺のテンションをあしらう様に小さく肩を竦ませて、
「何より神の力を溜める『器』とはそれ程に至難という事です。貴方を含め、十三人が召喚されましたがこの扉を開ける事が出来たのはこれで八人目になります」
――割と同じ境遇の被害者が居るらしい事に驚いた。
「十三とか、また嫌な数字だな……ってか試練すら受けれなかったその五人は、どうしたの?」
「試練を受ける資格の無い者はこの場で解放されます。現状の彼等の行方は私の知るところではありません」
なるほど。元々死ぬ筈だった命なのだから、生かされただけでもましだろう、と。
「だからってこんな森の中で放置は困るでしょうよ。せめて近くの村まで送ってくれるとかないの? 大丈夫かね召喚された先輩方、さっきも狼な魔物がさ――」
「この場に居ない者を案じても仕方がない事でしょう。何よりそれは資格の無い場合です。扉を開き試練に望む貴方には関わりの無い事です」
レヴァは特に関心の無い様子で肯いた。
「……――さぁ、行きますよ」
レヴァは、一拍の間を置いて、俺の質問を無視して扉の中に入って行く。
――ちらりと見えた彼女の顔はどこか寂しそうに遠くを見つめていた。
それを見てしまうと、「ところで俺以外に資格があるという七人はちゃんと勇者してるのか?」と軽口を叩くタイミングを逃してしまった。
「――あ」
と、不意に思い出す。
今日は妹の誕生日の筈だ――。
「……急いで帰らないとな」
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