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◇
「――初期装備を選びなさい、的な?」
中に入ると、崖をそのまま抉った様にドーム状の空間が広がっていた。
その洞窟の中心に、光を発する半透明の結晶が地面から生え、光源は十分に確保されているが、その理屈は全く分からない。
まぁ、『異世界だから』ということでスルーしておく。
それよりも興味を引いたのは、壁沿いに無造作に置かれた武器の数々。
剣の類は地面に突き立てられ、斧や槍は壁に立て掛けられている。
見るから、という状況だ。
「――察しが良くて助かります」
レヴァは小さく頷いた。
「さぁ、お好きな得物を。この先、貴方が命を預ける物です。一級とは言えませんがこの全てに微力ながら『神の力』が付与されています。容易に破損する事はありません」
言われて、品定めをすると目移りしてしまう。
多種多様の剣、槍、斧に加え、盾や弓もあった。
「好きなのって言ってもねぇ――流石に刀や銃はないか」
理想なのは聖剣や魔剣の類で無双スタイルをしたい所だ。
それが無理ならアサルトライフルやらショットガンやらを要求したいがそれも贅沢か。
そもそも、そのどれを渡されても手に余るのだが。
「そんじゃ、やっぱこれかなー?」
ゴソゴソと、武器の山から手頃な物を探し出す。
片手で扱えそうな少し短めで幅の広めな直剣と腕を通すベルトとグリップの付いた緩やかな曲線のついた小振りの円盾。
剣と盾。無難にしてテンプレートなピックアップ。
チュートリアルには丁度良い。
「……っても、剣と盾を装備したからって、俺のレベルは一のままなんだけどねぇー」
微妙に攻撃力と防御力が上がったからといって、先の狼チックな魔物とのバトルは遠慮したい。
ただの高校生が武装したところでゲームじゃあるまいし強さは変わらない。
普通の狼にも勝てる見込みとか微塵もないのだ。
シンプルだが本物の武器と実感できるディテールと重量を確かめながら、溜息をつく。
「心配には及びません。貴方には既に『神の力』が宿っているのですから」
「それな。その『神の力』って結局なんなのよ? ちょっと体力上がった気はするけど、それでどうこうできるもんかね?」
俺は、小さく肩を竦ませる。
再々出てくるその単語。響きはとてもファンタジー。
しかし、選ばれしこの俺は『何処にでも居る高校生』のキャッチコピーそのまんまなのだ。
確かに名前は『龍』ですが、別にドラゴンの力が宿っている訳ではなく単に両親が中二的センスを爆発させただけなのだ。
「そうですね……では、私を良く見て下さい」
「ん?」
言われて彼女を改めて見る。
しばらく一緒に居る訳だが、やはりまだ慣れていないと実感した。
単純に綺麗過ぎる。
元々異性の免疫が無く、クラスの女子と少し話すだけで妙に緊張する位のヘタレが、この美人を目の前にドギマギしない訳が無い。
だというのに、しっかり目は奪われる始末だ。
無意識に細かい動きが気になってしまう。
鮮やかな紫色の瞳が俺を真っすぐ見つめ、長い薄紫の髪が肩から滑り落ちる。
そして、呼吸の度に胸元が僅かに動くのも目ざとく目で追ってしまう。
「えぇ、そうです。私の視線、動き、呼吸――些細な挙動を見逃さないように集中を」
こちらの心情を知ってか知らずか、レヴァは頷いた。
下心が無いと言えば嘘になる。
しかし、集中が増すと妙にゆっくりと見え始めた。
まばたきの瞬間や、彼女の僅かな動きにつられて揺らめく毛先まで不自然に見て取れる。
そして、緩やかな動きで近場に刺さっている剣を手に取った。
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