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雨よ、やむな
雨がザーザーと降りしきっている。
俺は昇降口の前で、最近付き合い始めた恋人を待っていた。屋根があるおかげで、濡れる心配はない。
彼女はまだ来ない。委員会が長引いているのだろう。
既に生徒のほとんどが帰宅し、昇降口には俺のほかに誰もいなかった。
俺は祈った。
神様、どうかこのまま雨を降らせ続けて下さい。
俺は彼女と相合傘がしたいのです。
そのために今朝、人生で初めて母親に反発しました。
母親は
「午後から降水確率100%なんだから、傘持っていきなさい!」
と、俺を心配して、傘を渡そうとしてくれました。
でも俺は
「うっせぇな、ババァ! 100%は、100%じゃねぇんだよ!」
と、訳の分からない言い訳で押し通し、家を飛び出してきました。家に帰ったら、謝ろうと思います。
だから神様、どうかあの子が来るまで雨を降らせ続けて下さい。
なんなら、あの子が昇降口に来た瞬間に雨を降らせてくれても結構です。
そんな器用なことが可能なら、俺は今日から神様の信奉者になります。
でも、雨を自由自在に操れる神様って、なんていう名前の神様なんでしょうかね? お詣りするときはどこに行けばいいんでしょうか?
とりあえず、家の近所にある神社でいいですか? そこの神様に取り次いでもらって、
「宇賀くんがお詣りに来てたよー」
って連絡してもらえばいいですかね?
あ、今さらですけど、俺、宇賀っていいます。
宇宙の宇に、年賀状の賀です。神様ほどではありませんが、壮大で、めでたい名字でしょう?
雨乞いの時って、生贄を渡したりとか、雨乞いの踊りをするんですよね?
そこに自販機あるんで、缶コーヒーでもいいですか? 他にもお茶とか炭酸とかあるんですけど、どれがいいですかね?
雨乞いの踊りは、どんな踊りか知らないので、別の踊りでもいいですか?
今、体育で創作ダンスやってるんで、それでいきますね。今流行りのダンスグループをオマージュしたらしくて、結構カッコいいんですよ。
俺が踊ると、ソーラン節みたいだって笑われるんですけど、雨を降らせたいって気持ちは誰にも負けないんで。
じゃ、いきます……ワン、ツー、スリー、フォー!
「……何でこんなとこで、ソーラン節を踊ってるの?」
ダンスを2セット踊りきった頃、ようやく彼女が昇降口に来た。
雨乞いが成功したのかは定かでないが、雨はやんでいなかった。
俺はハンカチで額の汗を拭い、平静を装って彼女に言った。
「水川、一緒に帰ろうぜ。俺、傘忘れてきちまったからさ」
「ごめん。私、カッパで来たから」
「カッ……?!」
想定外の答えだったが、俺は諦めなかった。
「じ、じゃあ、2人でカッパを被らないか? それなら濡れないだろ?」
「別にいいけど……相合傘がしたいなら、それ使えば?」
彼女は俺の鞄を指差した。
鞄の外ポケットに、折り畳み傘が刺さっていた。鞄と同じ紺色だったので、今まで気づかなかったのだ。
こんなことをするのは、あの人しかいない。
「母ちゃん……」
俺は無事、彼女と相合傘をして帰った。
母親が脳内で「この礼は高くつくよ?」と言っている気がしたので、彼女と別れた後、近所の惣菜屋で夕飯のおかずにコロッケを買った。
雨がやんでいなかったおかげで、安売りをしていた。
(終わり)
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