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希薄で冷淡そうな姫君を前にして、ヨイは悟った。ああ、出世の道は断たれてしまったと。 奈良ヨイは野心家だ。 出世したい、高い地位につきたい、お金がほしい。ここまでは人並みによくある思いで、その為に努力するのは向上心が強いという言葉で済まされるレベルだ。しかし、彼はその上を目指す。──“いつかは国を動かす程の権力を持ちたい”。これが野心と言わずになんというのか。 そもそもヨイの野心の高さは、生まれ育った環境が影響している。 彼の祖国であるシーカは大陸の北方に領土を拡げる雪国である。山々の頂上は年中雪を被り、空は薄暗く凍てついている。 土地は肥えていないこの国では専ら鉱業や養蚕業が盛んだ。そんな中、ヨイの生まれた村は殊更に土地が痩せており、周りの山でも鉱物は取れなかった。養蚕も、蚕の餌となる桑が育たないので話しにならない。ヨイの村は皆が皆貧しい生活をして細々と生きていた。 それに耐えれなかったのがヨイだ。彼は困窮した生活にうんざりとしていた。何故こんなに窮屈な思いをして生き続けなければならないのか。都の人間たちはこの村より遥かに快適な生活をしているはずだ。同じ人間なのに、何故。何故。 考えれば考える程、理不尽だと感じる。しかしここでくよくよとしていても何も変わらないし、始まらない。発想の逆転だ。地元の不毛さは今に始まったことではないのだから嘆くだけ無駄。それならば豊かな都へ行けばいい。だからといって、都に頼るあてなどないし、ヨイに出来ることはその時、農作業位であった。それでは都に行ったところで生き倒れるだけだと子どもながらに思った。激情に任せて村を飛び出す程彼は迂闊ではなかったのだ。 それからヨイは、家の手伝いの合間や、寝る間を惜しんで勉強をした。村で一番学のある村長の元へも通ったし、少ない小遣いを貯めて本だって買い込んだ。学を重ねていくうちに、ヨイは宮仕えをすれば食いっぱぐれはないのではと考えるようになった。努力して頑張れば出世も出来るだろうし、出世すれば給金も上がり一生裕福な暮らしが出来るはずだ。上手くいけば、宰相となって国を思いのままに動かせたりするのでは?  頭の中で段々と明確になっていくその計画にヨイはほくそ笑む。その笑みに村長は疑問を抱いて問いかけるも、彼は答えを濁らせてうやむやにするのだった。
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