第1話 那由太、お迎えされる

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 あれから一週間後──六月七日、日曜日。 「ここかな……?」  電話で言われた時間通り、午後一時。電車を乗り継ぎスマホのナビに従って来てみたが、目的地にある建物はどう見ても住宅街の一軒家だった。  豪邸でもない、かといって小さくもない、一般的な中流家庭のファミリーが住んでるんだろうなと思われる二階建ての一軒家。俺の腰くらいの高さのレンガ塀に囲まれていて、塀から伸びた白い柵には緑のツタが絡まっている。家の出入り口に当たる部分で途切れた塀の内側左右には、綺麗な紫陽花が咲いていた。  ──確か、自宅兼仕事場だと言っていたっけ。  立派な表札には『藤ヶ崎(ふじがさき)』と彫られてある。やっぱり、電話口で言われた名前と同じだ。  俺は手汗をシャツの袖で拭いてから、一つ深呼吸をしてインターホンのボタンを押した。 〈はい〉  すぐに応対の声があがり、俺も覚悟を決めて素直に用件を告げる。 「あの、電話した春沢です。幸嶋さんの紹介で」 〈あっ〉  少し驚いたような声がして、数秒後にいきなり玄関のドアが開かれた。 「いらっしゃい。よく来てくれたね、どうぞ入って!」  中から出てきたのは、電話をした時に応対していたのと同じ声の男だった。  想像していたよりもずっと若い。前はサラサラ・後ろはツンツンの燃えるような赤い髪に、白い肌に長い手足。少しルーズなシャツからは右の肩が半分露出していて、それが単なるズボラからくるものなのか、或いはファッションなのかはよく分からない。 「どうぞ入って。ソーダも冷えてるしクッキーもあるよ!」 「すみません、お邪魔します……」  この家に一歩入ったら、きっともう後戻りはできない。……それでもこの一週間借金の取り立てから逃げ続けていた俺の精神は、もう藁にも縋りたいというところまで追いつめられていた。  一千万を肩代わりしてくれるというなら、今日今すぐにでも彼の「仕事」を手伝い始めても良いくらいだ。──とはいえ、まだその仕事内容は聞かされていないのだけれど。 「靴脱いだら、端っこに寄せておいてね」 「はい」  玄関から見渡せる家の内装は、外観と同じく白で統一されていた。意味不明だけど高そうな絵画に、大理石の床。頭上には廊下を優しく照らす小さなシャンデリア──どこもかしこも隅々まで綺麗に磨かれていて、外観は普通だったけど中身はまるでホテルのようだ。 「どうぞ、こちらがリビングだよ」  廊下を通り開かれたドアからリビングに入った瞬間、思わず小さな声が漏れた。 「わ、……」  綺麗で広いリビング。白い壁に高い天井。テーブルを囲む重厚な黒いソファ。広々としたカウンターキッチンに、円柱型の大きな水槽にはカラフルな熱帯魚が泳いでいる。 「凄い。綺麗で広い部屋ですね」 「物が少ないから広く見えるだけだと思うよ。俺の部屋なんかは汚くてごちゃごちゃしてるから狭いもん」 「実は俺の部屋もです」 「あはは。男の部屋なんて皆同じかな? そこ適当に座ってね」 「はい」  ……良かった。取り敢えずは良い人そうだ。
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