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放課後の花壇で魔法を
会社敷地の花壇に新しい花が咲いている。
昨日の昼間、業者が植え替えたのだろう。
普段から花壇に目を向けているが、昨日は残業で帰りは日もとっくに暮れた夜になったので気づかなかった。
──バーベナか。
梅雨の合間の初夏の朝日に、桜にも似た小さな花弁が揺れる。
普段なら五月頃に植えられるが、今年は作業が遅れてしまったのだろう。
けれども多田誠司は、その色とりどりの花を目にして少し楽しい気分になった。
──タイミングええな。
そんなことを思いつつ、社員証をかざして事務所に入る。
※
その花の名前を知ったのは高校生の頃だった。
母親がガーデニングを趣味にしていたので、実家の庭にも咲いていたとは思うが、そちらにはとんと興味がなかった。
初めて関心を持って見てみたのは、高校の校舎の傍の花壇でだ。
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