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普段教室で特に会話をしたことはない。
けれど入院中の誠司に、担任の発案だというクラス全員からの色紙を渡されたとき、そこに書いていた彼の文字に少し心惹かれた。
自他共に認める悪筆で、まるでみみずが這ったような自分の字と違い、とても端正な文字だったのだ。書かれていた内容はよくあるような文面だったけれど、その文字は心に残った。
顔立ちも、両親譲りの平々凡々な誠司とは異なり、彼の書く文字に似合った整ったものだ。
確か成績も良かったような気がする。
そんな情報は、別に誠司が特段それを知ろうとした訳ではなく、笹部に気のある女子がきゃいきゃいと話すのが耳に入ってきただけだ。
それにしても。
「笹部、こんなとこで何やってんの?」
うちの高校には園芸部はなかったはずだ。それに彼は剣道部だ。
誠司の問いかけに、笹部は土の付いた軍手の手で頭を掻いた。見た目に依らずけっこう雑な人間らしい。
「剣道部の指導してくれてはる用務員の山下さんいてはるやん。山下さんとこで不幸がありはったそうで、しばらく休みはんねん」
「へえ、それは大変や」
「せやろ? でな、花壇に植えはる予定で買うてはった花の苗が悪うなるの気にしてはってな。そんなら剣道部のみんなで植えようかって先生に相談してな、オーケーしてもろたから今日は苗植えることにしたんや。山下さんには俺らいつも世話になってるんやもん、たまにはお返ししたいやん」
「なんや、すごいな」
自分だったらそんなこと思いつくだろうか。そう思って素直に関心してしまう。
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