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AM2:30
草木も眠る丑三つ時。俺は誰かの呼び声でうっすらと目を覚ました。
「先輩、先輩てば。聴こえないのかな?」
そう独り言を言う声は、俺を慕う後輩の中島の声に似ている。だがそれにしても妙だ。何でかって、俺は中島を自分の部屋に招き入れてない。俺が寝る前は、この部屋は俺以外誰もいないワンルームだったはず。
まだ夢でも見てんのかなぁ。そう思っていると、自然と大欠伸が出てしまう。俺は碌に確認をすることもなく、ブランケットを肩まで引き上げて寝直すことにした。しかし中島に似ている声が、素直にそうはさせてくれにない。
「あ、先輩! 寝ないで、起きて! お願いだから!」
耳元で叫ばれるとどうも鬱陶しい。俺は顔を顰めながら、もう一度薄目を開ける。暗さに慣れていない目では、もはや家具の輪郭すら危うい。しかし視界一臂に広がっていたのが、青白い中島の顔だった。これは比喩などではなく、本当に青白く光っていた。それがまた現実離れしていて、どうも夢だとは思わずにいられない。
「中島?」
「起きてくれた。よかったぁ。やっぱ、俺の先輩への想いが通じたのかな?」
「お前なんでここに居んの?」
「日頃のアピールのおかげかな?」
「話聞けよ」
おぉ神よ、とでも言いそうな雰囲気で、中島はなぜか喜びを噛みしめている。俺はふと時間が気になり、スマホの電源を入れると午前二時半より少し前だった。道理で眠いわけだ。
「あ、先輩。おはようございます」
「まだ夜だよ」
取りあえず上半身を起こし、布団の上で胡坐をかく。そうして眠い目を擦りながら中島と対峙した。中島は言葉とは裏腹に、正座で布団の真横に座っている。そして俺の顔を覗き込むように手をついていた。俺はそれをじっと見つめていると、違和感に気が付く。
「なんか、お前の身体透けてね?」
「はい。幽霊ですから」
「……、はぁ?」
なにを冗談だと一蹴したいが、それだとこれらの説明が簡単についてしまう。俺はまだよく働かない頭で、にっこりと笑う中島を見ているしかできなかった。
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