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次の日、朝目が覚めた時には母が横に居てちょっとびっくりした。お酒を結構飲んだのか少し酒臭い。
俺は鼻を摘まんで下へ降りると祖父と祖母がテレビを付けてお茶を飲んでいた。
「おはようございます」
「ん?おぉ、おはよう。昨日は良く眠れたか?」
「おはようございます。早速朝食の準備をしますね」
「あ、はい。意外と気持ちよく眠れました。ありがとうございます」
「だろ?」
「風が気持ちいいって思えたのは初めてなくらいでした。あ、顔洗わなきゃ」
俺はそれだけ言うと顔を洗いに洗面所へ向かった。蛇口をひねると水が勢いよく出てくる。その水を手で受け止めると水が周りに飛び散る。だがそんなことは気にならないほど冷たく心地よかった。
その水で顔を洗い一気に目が覚める。近くにあったタオルで顔を拭くと居間に戻った。
その頃には料理が準備されており、昨日の残りがまたちゃぶ台の上に載っているのを見て食欲が失せる。
「一杯食べてくださいね」
祖母は素敵な笑顔でお茶碗に山盛りのご飯をよそってくれる。
「ありがとうございます」
人生で最高の演技をして茶碗を受け取り自身の前に置いた。
「それじゃあ。頂きます」
「「頂きます」」
そうして祖父と祖母は箸を取り食事を始める。
「あの」
「ん?」「どうしました?」
「母さんは朝ご飯を一緒に食べないんですか?」
俺が聞くと二人とも箸を止めてこちらを真っすぐ見てくる。
「あぁ、いいんだよ。あいつは良く飲みすぎるからな。それで次の日には吐きそうな顔をしてやがるんだ。その癖にその日の内にまた飲みに行くからな。ありゃ死んでも治らねぇから仕方ねぇよ」
「誰に似たんでしょうねぇ?」
「・・・さぁな」
母は今まで父の付き合いで酒は飲むことはあってもこんなにお酒を飲んだイメージはなかった。もしかして俺が寝た後に実は飲んでいたのだろうか?
そんなことを思いつつも少しづつ少しづつ箸を動かし祖母の愛情を腹に落としていく。腹からは危険信号が出ているがそれを受け入れる訳にはいかなかった。
祖父の町の説明を食事をしながら聞く。何でもこの町は大体の場所が分かれているそうだ。大きな円があるとして、中央と南側が町になっていて、南端が普通の昨日俺達が乗ってきた船が着いた所。東は砂浜になっていて観光客や子供の遊び場らしい。北は森になっているが大した深さもないので気軽に行っていいとのこと。西側だけは注意が必要で漁船の発着場になっていて、魚が打ち上げられたりして危ないので行かないことと言われた。
その話をしっかりと聞きながらゆっくりご飯を食べて、祖母に再度愛を注がれない内に外へと飛び出した。
「御馳走様!ちょっと海に行ってくる!」
「おう、行ってこい!」
「あらあら元気ねぇ。いってらっしゃい」
愛から逃げる為に着の身着のままで出てきてしまう。だけどそれは仕方のないことだった。
少し歩いてから端と気付く。急いで出たは良いものの砂浜がどっちか分からずに立往生してしまった。
暫くどうしようかと歩いていると薄いTシャツにミニスカートを履いた高校生位ののお姉さんが二人前から歩いてきた。
「おねぇさん!ちょっと聞いていい?」
おねぇさん達は俺に気付くとしゃべるのを止めてこちらに向き直る。そして目線を合わせるようにかがんでくる。
「俺、東の砂浜に行ってみたいんだけど何処か分からなくって、どうやって行けばいいですか」
「ああ、それならそっちの道を真っすぐ行けば直ぐに出るよ」
「本当?ありがとう!」
「あんまり沖まで行くと流されるから気を付けてね」
「うん!」
それだけ聞ければもう大丈夫と急いで砂浜へと向かった。
俺は言われた通りに進む。街並みはまだ朝だからかほとんどの店はしまっているようだ。といってもほとんどが民家で店らしき店はなかったが。
そんな面白味もない通りをさっさと抜けるとそこには白い砂浜が広がっていた。それと対を為す水は透明で海の中だというのに深いところまで見える。旅行のパンフレット等で見るような綺麗な砂浜だった。
「うわぁ~!!!」
こんなに綺麗な海だとは考えていなくて思わず感嘆の声が零れる。たとえ子供でも美しい物は美しいと感じるのだ。
暫くそうしていたが見ているだけじゃつまらないと思って砂浜に入る。砂は柔らかくサンダルの中に侵入してくる。それがくすぐったいけど嫌じゃなく優しい。
俺はずんずんと先へ進み迫ってくる波にくるぶしまで浸してみる。
「冷たい!」
その冷たさはさっき顔を洗った時よりも冷たく心地よい。俺はどうしようもなくなりサンダルだけは砂浜に投げ捨ててTシャツに短パンを穿いたまま海に飛び込んだ。
ザブン
海に潜ると小さな魚達が泳いでいる。それに近づくと彼らは急いで離れて行ってしまう。残念に思いながらも息継ぎの為に海面を乗り越えた。
「ぷはぁ」
空気を思い切り肺に入れる。それはいつも吸っている空気とは思えない程美味しかった。朝食は無限に食べられなかったがこれなら無限に食べられると思った。
何度か呼吸をして落ち着く。海の中が綺麗で少し長く潜りすぎていたみたいだ。
昨日はあんなに見て、もう見なくていいと思っていた水平線はとても輝いて見える。その反対側はどうなっているのだろうかと思い後ろを振り返ると、そこには輝く砂浜がある。とても綺麗な物に囲まれていて幸せな気持ちになった。
この気持ちを分け合いたいと思うが母は寝ていて父は出張、友達はゲームでもやっているだろう。そう思うと思考が現実に帰ってくる。
何かないかなと思って砂浜を隅々まで見ても誰もいない。こんなに綺麗な場所なのに誰もいないのがちょっと信じられなかった。
「これがプライベートビーチってやつか」
友達がこの夏プライベートビーチに行くと自慢していたのを思い出し少し優越感が出てきた。
(俺だって来ちゃったもんねー)
しかもこんなに広く綺麗な場所はほとんどないだろう。それから2時間はたっぷりと遊んだ。
(飽きてきたな・・・)
最初の方こそ一杯潜ってみたり泳いでみたりしていたが所詮は1人、直ぐに飽きてしまう。それからも誰も人は来ることがなかったけどそれが逆に苦痛に感じた。
(帰るか・・・)
服を着たまま入ったため他の場所に行くことも出来ない。少し砂浜に座っていたら乾いた為に家には帰れるかと思い来た道を戻る。
「ただいまー」
「おぉ、おかえり」
家に帰ると祖父が庭で草むしりをしていた。首にタオルを巻きTシャツの背中は汗でびっしょりと濡れている。祖父はその手を止めて腰を叩きながら立ち上がった。
「どうしたんだこんな時間に?何かあったか?」
「うん、砂浜に行ってたんだけど1人で遊んでるのに飽きちゃって・・・それに服も濡れちゃったからさ」
「なんだそんなことか、さっさと着替えて来い。つってもこの天気だほかっといても直ぐに乾く」
「そうなの?」
「ああ、それと後で網と籠を貸してやるからそれで森に行って虫でも取ってきたらどうだ?」
「分かった!やってみる!」
俺はそう言って急いで家に上がりほとんど乾きかけている服を着替える。部屋では母がまだ寝ていたので起こさないように静かにやった。そして下に降りてくると祖父が網と籠を準備して待ってくれていた。
「もうあるの!?」
「ああ、大地が来るのが分かってたからな。ちゃんと準備してあったんだよ」
「ありがとう!行ってくるね!」
「ああ、気ぃつけるんやぞ」
「はーい!」
「後、飯までには帰って来いよー!」
「はーい!」
俺は網と籠を持ち再度家を飛び出した。祖父の最後の声に返した返事は彼に聞こえていたかは定かではない。
道はこっちの道が東だったから・・・。こっちが北だ!そう思ってそちらへの道を進む。少しするとそこには青々と生い茂る木々が立ち並んでいた。
木々はそれぞれが太く登るのに苦労しそうだ。ただ目の前を蝶々やトンボが飛んでいて虫への期待感を膨らませてくれる。ただ一つ気になることといえばここからでも奥に海が見えるためそこまで広くないことか。広くないということはあんまり大きな物はいなさそうだ。
森の中を隈なく探索してみる。といっても祖父の言っていた通りそんなに広くはないようで小1時間もあれば子供の俺でも森を全て見て回れた。
勿論どんな虫がいるかも見ながらだ。だが、俺の気を引くようなものは見当たらなかった。居ても最初に見つけた蝶々やトンボが少しくらいで、後は蝉が少しいたくらいかな?カブトムシやクワガタは全くといっていいほど見かけなかった。
「捕まえる虫がいねえじゃんか・・・」
時刻は昼、未だ日差しは強い。まだこの島で遊び始めてから半日と経っていない。それでも都会での遊びに慣れている俺にとってここでの遊びは退屈になっていた。
日差しを避けるために木陰に入り座り込む。するとぐぅと腹が鳴った。
「あ、そろそろ飯の時間か」
なんだかんだで森の探索は入念にやっていたため体力自体は使っていたのだ。
「森の中は午後からだな。後あの小屋も気になる・・・」
少し森に入った所に小さな小屋がぽつんと建っていた。それもそれぞれが距離を空けて3軒。
こんなところで何かやることでもあるのかな?何かの儀式に使うとかかな?
子供心がくすぐられる。何としても調べて見たい気持ちになるがそれは昼食を食ってからだと決める。
家に帰ると母は起きておりアイスを咥えながら祖父母と話していた。
「ただいまー」
「おかえりーどうよこの島は?」
「おう、おかえり」
「おかえりなさい」
「砂浜に行ったけど凄い綺麗だったよ。だれもいなくてプライベートビーチみたいだった」
「あーこの時間帯はそうねー」
母は壁に掛かっている時計を見た。
「帰ってきたのは腹が減ったからか?」
「うん。森を探索してたんだけど結構動いてお腹が減っちゃった」
「そうかそうか。じゃあ飯にするか」
「うん!」
「分かりました。じゃあ早紀手伝いなさい」
「えー母さんだけでやってよ」
「何言ってるの。アンタも母親になったんだから少しくらいは動きなさい」
「ちぇー」
祖母は母を連れてキッチンへと向かった。
昼は母も手伝ってくれたので綺麗に食べきることが出来た。
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