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俺はからっから乾いたスポンジ。
シンクの片隅に追いやられてその内捨てられる。
乾いた植物の種くらい固くて、皺々、くしゅくしゅ
ぽいとされるんだ。
弾力も水を含む収縮力も膨張力も無くなって
ふわふわひたひたと水を含んで柔らかだったこと
があったのは
女との別れ話の前。
女は紫陽花を傍によく置いていた。
涙を吸い取ってくれるの、とその花のことを、そう言っていた。
ひとはだれかのものになれるのか。そんな事も俺は知らない。女が誰かの所属品にはならないことになど考えは及ばない。
さようならはいわない、だが俺がその女とやっていけないという考えに囚われたとき、つまりお互いが行く道を違(たがえ)えたところや女が永遠には俺のものにはなれないという事が俺にだんだんとに知れてきた頃からだ。水気がなくなっていったのは。
スポンジという存在であった俺の水気はカラッカラッと引いていき、最後にひね曲り乾いた欠片になって残ったの、それが俺。
空気に晒され、それだけで失われてく水分。ほんとは失くしたくない。
水を湛えて花を咲かせているその花片から垂れ落ちる水滴を羨ましいと思うことすらなく、ただ成す術なく片隅で乾いたまま、誰かの俺をつまみ取り
紫陽花も見えないところへ追いやる指を、
ひしゃげるがまま、つまみ取られる瞬間迄
ただ乾き続ける。
長台の上に活けられた紫陽花とは真反対。
水を与える筈だった俺。
水差し綿の役割を奪われて、今ただ喉の渇きも感じずじっと、ひしゃげて、投げ出されたまま、
これ以上ないくらいただのしわくちゃ。
向かいくる俺をつまみ上げる汚れて乱暴な指を
ただ怯え、待ち受けて。
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