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ノストラダムスの大予言が本当なら、一九九九年の七月に恐怖の大魔王がやって来て、世界が終わる。
その予言を予定に組み込んで「来年は受験どころか世界が無くなるから、受験勉強なんかしなくても大丈夫だろう」と高を括っていたら、恐怖の大魔王がぜんぜんやって来ないまま、八月四日になってしまっていた。
正直なところ、まわりのみんながノストラダムスの大予言を信じていないことが英人には信じられなかった。自分だって、一年前ならそんなオカルトを本気で信じる奴の気が知れないと思っていただろう。
だけど一年前に起きたあの事件を目の当たりにして、これからの日本が、いや、世界が今までとおなじ日常で進んでいくなんて、とうてい信じられなかった。
「ミホミホに、今日こそ会えるかな?」
宗助がのんきに言う。
「会えるわけないだろ。そもそも、あの中にいるかどうかすら怪しいのに」
「いや、いるね。だって倉木さんが言ってたもんよ」
「あの人の言うことで、本当だったことのほうが少ないだろ。だって『小見川で黒河童を見た』とかいう人だぜ」
「でもこの前、一緒にいるとき、UFO見たぜ」
「嘘つけ。どうせ人工衛星か流れ星だろ。てか、あの人とまだ付き合いあるのかよ。ヤベー人だからやめとけよ。知ってる? 最近、ここら辺の野良犬を見かけなくなったのって、あの人が獲って食ってるかららしいぜ」
「ひでえこと言うなあ。人を見かけで判断しちゃいけないんだぜ」
自称「真実研究家」の倉木さんは、宗助の近所に住んでいる、いわゆるところの「名物おじさん」で、この町の子どもたちの畏怖と忌避と嘲笑の的になっている人物である。
最近はもうやめてしまったみたいだが、倉木さんは英人たちが小学生の頃、見かけた子どもたちに「調査」と称して近づき、新しい都市伝説や怪談を教えてもらう報酬としてお菓子をあげるという奇行を繰り返していた。
英人もその頃に何度か声をかけられ、当時ウワサになっていた「小見川の黒河童」や「菊間商店の雷団子」やなんかの情報を無邪気に提供することで、報酬を手にした経験がある。
たしかに宗助の言うとおり、倉木さんは変人であることを別にして人畜無害のおじさんだし、本当かどうかわからないけれど『小見町史誌』とかいう、この町の歴史書を書いた人だったりするとかしないとかなんだけど、さすがに分別のつくこの年齢になってまで、付き合っていいタイプの人間ではない。
「まあまあ倉木さんのことはいいじゃん、とにかく壁に行こうぜ」
「しょっちゅう行ってて、よく飽きないよな」
「まだミホミホに会ってないからな。見つけるまで何度でも行くよ、おれは」
宗助のこういう下らないことへの情熱は、マジで尊敬に値する。
「じゃあ、行こうぜ」
言ってスタスタと歩き出す宗助のあとを、英人はため息をひとつ吐いてから追った。
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