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「お、あれじゃねえか?」
宗助が双眼鏡をのぞきながら遠くを指さす。その先、30mほどのところにはセーラー服のようなものを着た女性の活死体が徘徊している。
「ちょっと貸して」
宗助から半ば強引に双眼鏡を奪い取り、あらためて見てみる。
「ミホミホかな?」
「うーん、どうだろ、顔が崩れてるからなんとも……」
宗助が会いたがっているミホミホは、本名を御崎美保といい、「DAPHNE」というアイドルグループのメンバーで、ほかの三人のメンバーとともに一年前の事件に巻き込まれ、不幸にも活死体になってしまった人物だ。
DAPHNE自体、そもそもこれから売り出すところだった無名のアイドルグループだったため大きな話題にはならなかったが、それでもアイドルファン界隈では「次に来るアイドルグループ」としてにわかに注目を浴びつつある時期だったから、一部の人たちにとって「DAPHNE活死体化事件」はとても大きな悲劇として認識されている。
「……やっぱりミホミホじゃあ、ないんじゃないかなあ」
ボロボロになっていて分かりにくいが、観察している活死体が着ている服はDAPHNEの衣装ではなく、本物のセーラー服のように見える。
残念ながら、恐らく、ただの女子中高生だろう。
「ちぇ、ちぇ、ちぇ、アレも外れかあ……」
心底、悔しそうに舌打ちをする宗助。
「そんな簡単には見つからないわな。二万体くらいはいるらしいし」
「夏休みの思い出にさ、なんか一個くらいほしいじゃん。生のミホミホに会えたら、それこそ最高の思い出だぜ」
英人は「もう生ではないけど」というキツめの冗談を飲みこんで、
「それよりさ、まだやんの? 足あとづくり」
と、話題を変えた。
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