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プロローグ
「ミホミホに会いに行こう」
高木宗助のいつもの提案に、
「またかよ」
と、田中英人はいつものようにこたえた。
中学二年の夏休みともなると、部活動に励むヤツらから、早くも高校受験へ向けての勉強で大忙しという連中まで、とにかく青春時代を謳歌している人間であふれ返っている。
だが宗助も英人もそういった気持ちにはなれず、ただお互いの家のどちらかでゲームをやったり、河原のベンチに座って、ボウっと名前も知らない野鳥の数を数えたり、むかしから秘密基地として使っている廃アパートへ行ってみたり、とにかく毎日どうやって暇をつぶすかという問題にだけ悩まされていた。
結局、新作の一コ前の格闘ゲームはやり飽きて、野鳥も途中からどれを数えたのかさっぱり分からなくなって、廃アパートは「沙亜禍巣」を自称する、かなりヤバいヤンキーグループの溜まり場になってしまったから、もう行けなくなってしまった。
だから帰宅部とはいえ、せめてもうそろそろ受験勉強くらいは本腰を入れなければいけないことを二人はとっくに意識していたが、お互いにそのことを口に出すこともなく、保留のまま日々を過ごしていた。
保留にしている理由はたったひとつ、今年が一九九九年だからだった。
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