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自分を生み育ててくれたはずの両親が本当の親ではなかったという事実と、さらに本当の両親は前国王と下級貴族の娘であったという真実を知ったのだ。
「なんの冗談だよ、これ。父さんと母さんと血が繋がってないなんてショックでたまらないけど、けど、そんなのどうでもいい。今まで一緒に過ごしてきたのはあの二人なんだし。二人がおれを育ててくれたおれの両親なんだ。今さら変えようがない!」
いきなり事実を突きつけられてもアルトは怯まなかった。物心つく前から育ててくれた人たちが両親なのだと言い切った。血の繋がりなど問題ないと強気に笑んだほどだ。
しかし自分を王都へ連れて行こうとする王家の使者と領主に憤慨し、最初は突っぱねていた彼も、育ての両親に説得にかかられた時には、絶望から自分にしがみつき泣き崩れた。
苦しげに嗚咽を漏らすアルトを、その時はただ抱き締めることしかできなかった。
それからの嵐のような日々が一瞬にして脳裏を襲い、悲痛な叫びが蘇ってきて思わず眼を閉じる。
(あの日から、オレたちの運命は狂った。狂わされてしまったんだ……)
突然、前方から自分を呼ぶ声が聞こえた。
「ロイー!」
眼を開けると、遠くで手を振る女性の姿があった。
ロイは相手を認識すると、微笑を浮かべ高々と手を挙げて応えた。
遠巻きに見ていた村人たちが、いつのまにか村長へと知らせに走っていたのだろう。
第一報はきっと見慣れぬ格好をした怪しい人物とでも言われたかもしれない。しかしそのうちロイの顔を思い出した者がいて王都から帰還したのだと広まったのか、今では取り巻く空気があたたかくなっていた。
「突然帰ってくるなんて、みんなを脅かさないでちょうだいな、ロイ」
「そんなにびっくりした? なるべく目立たない格好をしてきたつもりだったんだけどな。でも村に入った途端、妙な空気になったからこれはヤバイと思ったよ」
笑って言うと、母親はお茶を入れながらやわらかく微笑んだ。
「幸いにもこの村は領主さまの管理が行き届いていて警備隊の方々が夜の見回りもしてくださるから、盗賊の夜襲に遭う危険もなくて嬉しいことだわ。だから不審な人物が通りがかるとすぐにわかっちゃうのよ」
「おいおい~、オレのどこが不審者だよ。近衛騎士団隊長を捉まえてさ」
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