おまえとオレを絶つ闇

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 だがそれも長く続かないことは承知していた。  あの日、怒りを滲ませ苦渋に満ちた表情で周囲を睨みつけ、最後に自分を振り向き、泣きそうな瞳をしたアルトを見た時から、もう二度と昔のように傍にいられないのだと。  ロイは知ったのだ。 「母さん、頼みがあるんだけど」 「なに?」 「アルトの家、壊すことになったんだよ。育てのご両親には王城に上がっていただくことになった」 「え?」  母親は茫然と息子を凝視した。ロイは淡々とした口調で続ける。 「来年の春になったら陛下は正妃を娶られることになる。育ての母君はいわば乳母ということになるから城内に邸宅を持たれても不思議じゃない。父君ともども陛下のお近くに住まわれるほうが良いと国務大臣が言われた。オレはお二人のお迎えに使わされたんだよ」 「……そう」  母親はゆっくりと息を吐き出した。 「寂しくなるわね。二人とは昔から仲良くさせてもらっていたから。アルトくん、いえアルトさまが陛下となってからは、消沈した二人を慰めて、やっと笑って第二の人生を語れるようになったのに……彼女たちも行ってしまうのね。でもなぜ家を壊してしまうの? 陛下の生家、とは言えないかもしれないけど、思い出がいっぱい詰まった場所よ? 何も壊さなくてもいいと思うのだけど」 「その思い出を残さないためだよ」 「そんな……」  カップを握り締め、俯いた母親にロイは優しく声をかけた。 「だからさ、頼みがあるんだよ。父さんと母さんに」  ロイが故郷へ帰ってから数日経ったある日。  だだっ広い執務室の中、大きな書卓で書類と格闘するのに飽きたアルトは、バルコニーへと続く巨大な窓を開け放し、絨毯にそのままぺたりと座り込んだ格好で、ぶ厚い本をパラパラとめくっていた。 「……造船の原材料となる木材の種類は現在二十種類に及んでいるが、このうち五種に関しては第十七回新造船製作規定評議会での議題、……大量伐採による資源減少問題と森林愛護について協議した結果、伐採規定を厳しく定義していかなければ、……んああああもう疲れた。頭痛い……」  大きな溜息をついて、アルトはころりんとその場に転がった。
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